([と]1-1)多摩川物語 (ポプラ文庫 と 1-1)
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([と]1-1)多摩川物語 (ポプラ文庫 と 1-1) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
多摩川のほとりで暮らす人々を陰影深く描いた連作集で、傑作『あん』と同じような味わいがある。心に痛みや屈託を抱えた人達を包み込むような優しさで表現しているので、温かな読後感だった。私が一番気に入ったのは「花丼」。お客さんが来なくなった「大幸運食堂」の店主継治さんが、ふとしたきっかけで新メニューを考案する。自殺さえ考えていた継治さんが人を助けることで、自分も立ち直っていく過程が描かれており、読んでいて励まされる気持ちになった。「花丼」がおいしいかどうかはっきりしないが、食べてみたい。
2015/12/10
ゆみねこ
多摩川の岸辺に住む人々の人生のドラマ、8つの連作短編集。農家の奥さん・古書店の店員・小学生たち・撮影所の小道具さん・絵を描く中学生・寂れかけた食堂の店主・父子家庭と母子家庭の親子たち・母を偲ぶ娘。どのお話も心にしみます。「花丼」「越冬」「月明かりの夜に」が好きです。
2015/07/20
おいしゃん
どの短編も、とても切ない。息絶える愛猫ミーコ、粉々になる思い出のボトル、やむなく手放すことになった卓袱台…。きゅーっと締め付けられるような切なさの先には、どの短編もほんの小さなあたたかさがあり、すごく良かった。自分も、亡き祖父とサイクリングしたり、以前付き合ってた子とお散歩したり、通勤で毎日眺めたり…多摩川にはかなり思い入れがあるので、より心に沁みた本だった。
2015/05/25
chimako
頭をなでられて「よくやってるね」と褒めてもらったように気持ちがホッと暖かくなる。「そんなこともあるよ」と肩をポンポンと叩かれて励まされたように涙腺がゆるむ。小さな幸せがやってきたのは多摩川沿いに住む主人公たちなのに、それが自分の手のひらに舞い込んだように一緒に微笑むことが出来る短編集。人々のささやかな関わりと四季の移り変わりが多摩川の水音に混ざって何とも読み心地の良い一冊だった。ドリアン助川さんは『あん』以来二冊目だが、他の作品も読んでみようと思わせる。
2015/04/09
しいたけ
多摩川を見ながら生活する人々其々の人生の冬。冬の越え方に迷い佇むとき手を差し伸べてくれる人もまた、冬の痛みや想いを持つ。「だめな日にはだめな日なりに、毎日を味わって生きていきなさいね」。「一人ぼっちになると、他人を励ました分だけへこむようなところが継治さんにはあった」この一文に、ドリアンさんの優しさや温かさが表われているようで癒される。夫婦であっても感じる孤独感、故郷の母への思い、言葉に出さないと決めた仄かな恋心、落語のテープに録音された母からの最後のメッセージ。川面のきらめきを見つめる時を持ちたい。
2016/06/21
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