([こ]1-6)アップルソング (ポプラ文庫 こ 1-6)
([こ]1-6)アップルソング (ポプラ文庫 こ 1-6) / 感想・レビュー
ちゃちゃ
戦後の激動期を生きた報道写真家、茉莉江を描いた素晴らしい作品だった。人は自らを突き動かす抗いがたい衝動と出会った時、前に進むしかないのだろうか。殺戮と狂気が支配する現場を、茉莉江や恋人の蓮慈はカメラで切り取ろうとする。その姿を通し、作者は渾身の思いで訴える。殺された人ひとりひとりに、自分たちと同じ命があり、幸福な人生を歩む権利があったのだと。物事を一般化することは真実を見えなくさせてしまうと。瓦礫の中から差し出された手を、危険を顧みずに救おうとする茉莉江の姿。人間に存在する善と美を象徴するラストだった。
2017/01/07
hrmt
戦火の中から救われた赤児が、長じて報道写真家となった激動の一生を描く。『この世の美しいものを撮りたい』との思いを凌駕した『美しくないもので満たされているこの世界を知る』という茉莉江の思い。いつの世も戦争があり、自由と混沌の中で非情で残酷で醜いこの世を知るべきだと、災禍の人々の叫びを、希望を願う激情を描いている気がした。人の歴史は戦争と共にある。けれど私達は自身に災いが降り懸からなければ遠い地の果てか映画のようにしか感じない。世の一人一人が、絶望を覆い尽くす善によってこの世の平和を願えば叶う筈だと思いたい。
2017/11/06
ケロコ
【図書館】読み終えて暫し茫然。食い入るように読み終えた。人の運命の儚さを思い知る。好きな人の側に寄り添って生きることが出来なかった茉莉江の無念さは計り知れない。『この世は美しくないもので満たされている。』という茉莉江の言葉、『世界は美しくない。醜い。むごい。残酷で冷酷だ。非情で非業だ。』という言葉。全てが私にのしかかる。戦争という争いだけでなく、日々の暮らしのなかにも感じる非情さ、悲哀を感じた。前を向いて生きても、努力しても報われない悲しみを感じてしまった。私、今ちょっとダメみたい。
2016/06/20
橘
茉莉江の駆け抜けた生涯の密度の濃さにとても引き込まれて、重い読書でしたが心に刺さりました。人は醜い。争うこと、破壊することをやめられない。でも、善や美を諦められません。終戦から現代へと続く日本や世界の情勢、中でもテロや戦争の描写に、本当に茉莉江がそこにいて伝えてくれたかのような気持ちになりました。美化してはいけない。一般化してもいけない。自分も無関係ではいられません。この世界で生きていく、しっかり考えていかなくては、という思いになりましました。面白かったです。
2017/09/29
keith
終戦直前に焼け跡から助け出された女の赤ちゃん。彼女茉莉江は後に報道写真家となり戦争やテロといった悪魔の悪行を映し出していく。写真家茉莉江の大河小説であり反戦小説でもありました。「決して忘れはしないと思っていながらも、忘れてしまう。それはなぜか。忘れてしまわなければ、生きていけないからではないか。」「忘れてしまってもいいんじゃないか。ときどき思い出せば十分。何もかも細かいところまで覚えていたら、苦しくて生きていけなくなるでしょ。」なるほどなあと思いました。
2016/05/24
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