星ちりばめたる旗
星ちりばめたる旗 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
タイトルに魅かれて購入。表紙ジャケットの絵から内容は想像がつくように、これは日系アメリカ人家族3代の物語である。ただし、編年体のクロニクルの構成をとらずに、3世代の間を行き来する。それは物語の単調化と平板化を避けるとともに、世代を超えて彼らがアメリカで生きたことの証を跡付けるといった意味が込められていたゆえだろう。巻末に記された相当な数の参考文献からは、作家の並々ならぬ意気込みが伝わってくる。エンディングがことにいい。読み終えた今、静謐な感動に包まれ、アメリカに生きた彼らに想いをはせている。
2020/08/07
風眠
自分の土地を耕やし、成功し、幸せになるんだ。そんな夢と希望を胸に、遥かアメリカの地へと渡った日本人たち。過酷な労働に耐え、アメリカに根をおろしていった幹三郎。写真花嫁として海を越え、幹三郎のもとに嫁いだ佳乃。そして授かった子供たち。人種差別が激しかった時代ではあったが、家族と共に生きる幸せも、そこには確かにあった。やがて戦争が始まり、アメリカか、日本か、その狭間で問われ続ける日系一世たち。理不尽と暴力と略奪の日々、引き裂かれる心。戦争というものは、後々の世代にまで傷を残す。だから戦争はしちゃいかんのです!
2018/03/10
美登利
貧しい田舎から一旗上げようと渡米した者は多かった。資格を得ることは難しく命懸けで渡るが想像を絶する労働環境と人種差別。その中成功した1握りの人の運命も戦争の大波に飲まれ何もかも失ってしまう。それはアメリカに限らずブラジルでもその他の国でも同じであったろう。敵国となってしまった日本、家族親戚を相手に戦う羽目になる者達の心が痛いように伝わり迫力のある作品。日系3世まで渡る長い物語は、語り手が入り乱れるので多少読みにくい。相関図があると良い。アメリカが悪いのではなく、この世に未だにある戦争というものが憎いのだ。
2017/11/02
hiace9000
100年間に渡る壮絶なファミリーストーリーを読み終え、いま大きく息を吐く。日本人でもありアメリカ人でもあった大原家、オハラファミリー。歴史の波に翻弄され、激流に飲み込まれざるをえなかった日系アメリカ人たちの悲運。しかし、そのなかで散りばめた星のひとつとして「生きて」「死んで」いった多くの同胞。彼らの苦悩を日米両面からフラットかつ克明に描けるのは、自身も同じ葛藤に苛まれたであろう小手鞠さんならではーとも察する。『アップルソング』からの本作。いま作者の手のひらの上にあるものは何か…。それを思索する読後である。
2023/03/02
あすなろ
僕は知りませんでした。戦時中の米で三国同盟のうち、独と伊からの移民には与えられていた国籍が、日本人だけには与えられてていなかったという事実を。小手鞠氏描く日系アメリカ人の歴史から紡いだストーリー。しかし、ここに描かれていることが史実に近いだろうことは、参考文献の多さが証明している。メロン農家の話が出てくる。メロンは、枯らさぬギリギリまで水を遣らず育て、表皮が割れ、液が出てコルク状になってマスクメロンが出来るという。その果実は甘い。日系アメリカ一世の方々の思いが、そのメロンの表皮に現れてているような気がした
2017/11/17
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