ジュリーの世界
ジュリーの世界 / 感想・レビュー
Kei
かつて、京都に実在した浮浪者、河原町のジュリーを取り巻く物語。管内の警察署員、バーを経営している写真家、鳥獣屋に通う少年。あの時代に、彼と生きた人の数だけの、彼の物語。抵抗できない理不尽に絶望し、それを許し忘れ、今を享受するだけの世の中や世間の人々から、ジュリーは背を向け、ステージから降りた。そして、たったひとつの確かなもの、だけを頼りに、その街を歩いた。そのたった2ページの、あの時代の、あの街の、描写に、私、泣いてしまいました。人間の尊厳を問う作品。あの頃、私も、ジュリーとすれ違っていたかもしれません。
2021/08/23
fwhd8325
増山さんの作品には、いつも共通した世界を感じます。それは、忘れてしまったもの、失ってしまったものです。それは記憶であったり、心であったりします。だから、増山さんの作品を読むと切なくなったり、懐かしくなったりします。この作品は、実際にいた「河原町のジュリー」を主人公にした物語です。彼を通して戦争の悲惨さや、経済成長という名目で見失ったものが鮮明に浮かび上がります。それでも、私たちは「あの時代はよかった」 と感傷に浸ってはいけないのでしょうか。
2021/04/25
里愛乍
知る人ぞ知る河原町のジュリー、彼を取り上げたというよりは、彼の居たあの空間を人々を描いている。平成になり令和になり、あの頃とはさっぱり変わってしまったけど、自分でもびっくりするくらいページをめくればめくるほど、読み進めていけばいくほど、あの頃の風景が数珠繋ぎに蘇ってきた。スカラ座や京都花月、駸々堂に十字屋、終盤に彼が語る三条新京極から連なる店は今歩いていても目に浮かぶようだ。正直ずるい、と思った。こんなん、読んでて好きにならへんわけないやん。買ってよかったと心から。
2021/05/03
ぶんこ
素晴らしかったです。1979年の京都京極界隈に実在した浮浪者ジュリーと、その年に交番勤務の新米巡査になった木戸の日々。観光客も多い新京極の人混みに、見るからに浮浪者のジュリーが容認されていたということに驚きました。コソコソせずに泰然としていたからなのでしょうか。木戸巡査の教育係ともいえる山崎巡査長の人柄が素晴らしくて、これは木戸にとっては辛い少年時代を補ってあまりあったのではないか。国体開催ということが、その地の開発の原動力だとは驚きでした。人の尊厳とは何かを山崎・木戸ペアに教わったような気持ちです。
2021/09/18
ばう
★★★★昭和の頃京都に実在した「河原町のジュリー」をフィクションの世界で蘇らせた本書。四条河原町から三条、新京極通、寺町通り、そして四条通り、この長方形で囲まれた通りのみを徘徊していたジュリー。彼は何という名前でどこから、何故京都に来たのか?謎に包まれたその姿が主に新米警官の目を通して明らかになっていく。彼の本当の想いは誰にも分からないけれど、出会った人達はその姿に自分の人生や思いを重ねていく。物語としても勿論面白かったけれど、こんなに心がざわついたのは彼がいた頃の京都に私もまた居たからかもしれない。
2023/07/10
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