エンジン・サマー (扶桑社ミステリー ク 22-1)
エンジン・サマー (扶桑社ミステリー ク 22-1) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
文明が崩壊した後のアメリカで、「しゃべる灯心草」と呼ばれる少年が、旅をしていく物語。本当に本当に美しい物語で、あまりの美しさに圧倒されて、読みながら何度も涙がこぼれた。作者のクロウリーは、言葉の使い方が独特だ。例えば、題の『エンジン・サマー』は小春日和のインディアン・サマーから来ている。エンジンという言葉は、現代文明を支えているテクノロジーを連想させる。それをサマー(夏)と組み合わせることで、様々なイメージが生まれてくる。(続きます)
2017/10/08
おおた
SFの人たちに教えてもらったむかし、この本を読むスキルはまだなかった。SFを読まなくなった現在、それでもこの本は大傑作と言い切れるし、物語とはこういうこと。文明が一度なくなった世界は、現代のわたしから見ると隠喩で構成されたネイティブ・インディアンのような世界(なのにインディアンという言葉はエンジンに置き換わっている)のようだ。分からないことも後書きによっておおむね理解されるし、冒頭に戻ると「あなたの物語。」で天使ならざる人間の悲哀に涙せざるを得ない。何度でも灯芯草に出会うためにこの本を読み返すだろう。
2018/07/15
fukumasagami
「ワンス・ア・デイ」顔を隠している彼女の髪に頬を押しあてた。「ワンス・ア・デイ、冬なんかないといってくれ。冬なんか来ないといってくれ。そうしたらきみを信じるから」
2017/09/10
おーすが
初恋のまぶしさのつまった象徴の未来世界。消えたワンスアデイ、死んだ天使たち、巨大猫。やさしくて勇敢な少年が世界の謎に迫る。触覚にうったえるような抒情的文体がどこまでも心地よい。ちょっときれいすぎる気もするけど間違いなく手元に置きたくなる一冊。意味はわからなくても多分大丈夫。何度も読んだらあるいは。
2021/11/24
乙郎さん
ガラス張りの部屋にいるかのよう爽やかさを感じた。物語を語るというメタ構造とか、現代社会に対する寓意などを考えられるほど煮詰まってはいないのが事実。訳者も書いているが、世界崩壊後に生まれた少年の目線で知ったことがすべてなので、読むのに苦労するのも事実。もしかすると美しい描写に浸りながら切ないラストに思いを寄せるのが正しい鑑賞法なのかも。
2009/04/25
感想・レビューをもっと見る