愛と痛み 死刑をめぐって
愛と痛み 死刑をめぐって / 感想・レビュー
どんぐり
死刑に反対・賛成は、人それぞれ考えがあっていい。もちろん、辺見庸は死刑廃止論者である。死刑是非論よりも、この国で暴走を始めている世間への彼の思考に引きつけられた。この言葉に耳を傾けてほしい。「かつて、ひそひそ声で囁かれていた世間の声が、メディアが世間と合体したことによってこの国に公然とまかり通るようになったのです。世間は新聞やテレビメディアだけではなく、インターネットの世界にまで拡大しつつある。世間という不思議な、非言語的、非論理的な磁場からくる荷重が、かつてよりずしりと重く私たちにのしかかっている。それ
2014/05/29
Ayumi Katayama
「死刑を執行する五つのボタンの先に私たちは存在している」「今度死刑が執行されたとしたら、それは私の努力が足りなくてまたひとりの命が奪われたということです」死刑の責任は、執行する刑務官ではなく、教誨師でもなく、判決を下した裁判官でもなく、執行命令書を作った法務省でもなく、その命令書に判を押した法相でもない。「やめてくれ」と叫ばないからと言って教誨師を責めてはいけない。被告人に愛を注げないからといって弁護人を責めてはいけない。死刑の責任、それはその法を容認している全国民にある。そして、著者も私もその一人なのだ
2017/12/22
魚53
死刑制度と戦争は繋がっている。世間という階調に自己を合わせるだけで、個として言葉を用いて考えることをしないのだ。個が自分の痛みから出発して他者の痛みに想像力を駆使して到達しようと足掻くことでしか、世間に対抗するすべはない。世間に巻き込まれず、個としてものを考えることの重要性とこの国での困難さを思う。でも、考えなければならない。そうでなければ死刑を温存するこの国は、世間というどこに主体があるかわからない何かに主導されてまた戦争に突き進むだろうから。「朝の廃墟」が素晴らしい。目を入れ替えてものを見ようと思う。
2023/04/04
アルクシ・ガイ
まとまりがない。著者の言葉の中でだけ、考えが空回りしている。死刑反対派の私の胸にさえ訴えないのだから、存続派が読んでも得るものは何もあるまい。それとも、そう思うのは、私がネットで死刑論争に励みすぎているから? 中には、絞首刑された囚人が失禁すると聞いて、死刑反対派に鞍替えする人もいるのかな。
2018/12/14
すうさん
死刑反対論として読んだが、内容は凄まじい迫力のある本であった。10年近く前に世に出た本だが、著者の左翼思想というよりは、貧しきもの弱いものにたいする真摯な感情。また権力やマスコミという名の「世間」に対する怒りの感情。それらが強い言葉で、ページの間でうねりをあげている。それゆえに最後の「スパルタクス」の逸話が私に突き刺さる。死刑をめぐってだけでなく、戦争も、生きること死ぬことへも自分が「個」としてしっかり立ち向けるかを作者は読者に突きつける。まさに読後は「愛と痛み」を感じるだろう。
2017/11/26
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