炉辺の風おと
炉辺の風おと / 感想・レビュー
trazom
殺伐とした時代の慌ただしい年末だから、こういう随筆が心に染みる。八ヶ岳の山小屋暮らしを始めた梨木さん。木々や鳥たちという自然だけでなく、山小屋を作った人や以前住んでいた人へ思いを馳せ、暖炉で火を熾しながら、「鳥も獣も人間もみな「地球という大きな庭」の一部」として巡らされた思索は静かで深い。でも後半になると、コロナ下の政府・社会への不満やお父様の病院への不信などが直截的な言葉で綴られる。ご自身の確乎とした強い意思を、清んだ文章の中に暗喩として優しく包み込んで表現するのが梨木さんのエッセイの魅力だったのに…。
2022/12/30
kaoru
八ヶ岳の山荘での日々を綴ったエッセイ集。暖炉に薪をくべ小鳥やリスに餌をやりつつ、絶滅する種に思いを馳せるなど自然の声に耳を傾けてきた梨木さんらしいが、そこに父上の看取りとコロナウィルスが日常を壊した日々の記述が加わる。看取りの体験で抱いた問題意識は「現代医療に対する疑問としてライフワークになる予感」がしているそうだ。ナチュラリストであり人間社会や歴史を俯瞰してきた彼女に、その問題意識をぜひ掘り下げて欲しいと思う。とはいえ小屋周りや鳥、植物、小動物といった彼女の「最重要関心事」の記述が愛らしく示唆に富む⇒
2021/04/23
アキ
八ヶ岳の山小屋の炉に薪をくべて火を熾し、森の書斎で原稿を書く。窓の外に鳥が啼き、嵐の夜には木々が飛ばされそうにしなって森の音が聞こえる。東京と山小屋を行き来する生活が目に浮かぶよう。毎週新聞に連載していた文章は、装うこともなく生々しいその時々の思いを伝える。気になった言葉、ふと気づいた思いがけない植物、父の死、読みかけの本のこと。60歳近くになり、背骨の骨折、聴覚の低下などもう若くはない体を、立ち枯れしたウバユリに自らの姿を重ね、人生の最後の一瞬を思い浮かべるようになると、また自然の見え方が変わってくる。
2020/10/23
ぶち
読友さんのレビューに惹かれて、手に取りました。「私の心に静かに染み込んでくる」という読友さんの感想そのままのエッセイです。小動物や植物との共生、日常の暮らしに感じる季節の移ろい、炉辺の薪の炎との対話、梨木さんの日々の想いが綴られています。そして、山小屋の周囲の自然から、ご自身のこと、お身内のこと、さらには人間社会について語られていきます。どこに目を向けていても、梨木さんの眼差しは優しく、深く、読んでいると頭の奥がしんと静かになり、癒される感覚がしてきます。
2024/02/01
Ikutan
八ヶ岳で山小屋暮らしを始めた梨木さんの日々を丁寧に綴ったエッセイ。梨木さんがいつも大切にされている自然との心豊かな暮らし。様々な野鳥や植物、動物たち。ネットで画像や鳴き声を検索しながらゆっくりと読みすすめる。美しい文章と装丁にはうっとりと。"火"に対する思い入れも伝わってきて、薪ストーブ暮らしから、火熾しも覚え、新しく作った"離れ"には暖炉が付いているという。穏やかな炉辺での暮らしのはずだったが、後半はご家族の死にまつわる静かな悲しみ怒り、コロナ禍における提言なども綴られる。様々なメッセージ心に留めたい。
2020/11/11
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