ヴァージニア・ウルフ著作集 1
ヴァージニア・ウルフ著作集 1 / 感想・レビュー
のっち♬
人生に数学的真理を求めるキャサリンと幻影の世界を生きるレイフの恋愛関係が主軸。思考と行動、孤独と社会、理性と幻想の断絶の中における人と人との結びつきを追求しており、地の文と内的独白が不明瞭に混在した比喩表現の多い文体は未洗練で、思考の無秩序性を映し出すのに四苦八苦な印象。「自分の幻想を信頼しなければいけない」と、大団円へ導くヒルベリー夫人が魅力的な立役者。随所に現れる燈台のモチーフも後年の作品に通じるものがある。幻想のない人生は余りにも陰鬱だ。それを共有し、絶え間ない発見の過程にこそ人生の本質があるのだ。
2021/02/04
NAO
昼=理性・社会・行動の世界と、夜=思考・孤独・想像力の世界の間で揺れる、思春期の孤独な少女。情の世界を好みながらも、生きるためには理の世界に拘束されるべきかと悩む娘に、情の世界に生きることを説く母。そして、それが孤独であることを知っているがゆえに、彼女と同じように二つの世界に引き裂かれているレイフを娘に勧める。情の世界に生きることを「詩を書く」と表現している母の繊細さは、そのまま芸術家の繊細さだ。第二作で文章はまだ充分にこなれてはいない感じはするが、ウルフの繊細さ、孤独感、夢想性がすでにみられる。
2017/01/25
Gotoran
ヴァージニア・ウルフ的テーマ[孤独と社会、思考と行動、夢と現実、想像と理性等]萌芽期の作品。英国中流階級に生まれ数学と天文学が好きなキャサリン・ヒルベリー[主人公]。貧しい家庭育ち、天性の教養と文才がある弁護士のレイフ・デナム。郊外の牧師の娘で婦人参政権協会事務所で働くメアリ・ダチェット。主人公他、三人の若い男女間の恋愛感情の物語。当時の階級、家庭の伝統、社会の因習、世人の思惑等がある中で感情の繊細さと激しさの間で揺れ動く三者三様の心理状態が細密に丁寧に描き出されている。
2015/03/22
ぺったらぺたら子
対立する二つの力、題名の意図を詩的な力と散文的な力、と表現したい。前作には息づいていた著者独特の詩的・音楽的・霊的表現を封印、敢えて散文的にそれらの感覚を綴って行く。数学と天文学が今回の鍵だが、私は鳥渡ゲーテ「親和力」の理系的感性を連想した。完全に誠実で自由でありながら他者と関係を持つという命題を与えられた主人公は周りの男女を巻き込みスワッピング的恋愛実験へ突入、愛という究極的な答え、詩という力を発見する道を一歩ずつ確認しながら進んでいく。またそれは平行してフェミニズムという道をも示している→
2017/10/19
mamei
『ジェイコブの部屋』以降の作品に比べると、伝統的な手法で書かれているため長く、冗長。手法は違うが、キャサリンの心理を細かく描こうとしている点に、他の作品でも見られるウルフの心理描写のこだわりを感じた。メアリー・ダチェットの設定が面白かったので、彼女がレイフとの恋に破れてからどういう風に仕事をするのかをもっと書いて欲しかった。
2019/04/28
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