ヴァージニア・ウルフ著作集 5
ヴァージニア・ウルフ著作集 5 / 感想・レビュー
syaori
6人の男女の独白だけで描かれる彼らの幼年時代から老年まで。彼らの思考が流れ込む大海に浮かび、波のように寄せては返す6人の意識を感じるのは、何かとても得難い体験でした。彼らの語るそれぞれの悩みや思い、つまり人生が複雑に絡み合いつくりだす大きな〝もの”。「稀有な空気の壁に囲まれている」水晶の球体にも、「全なる花」にも例えられるその〝もの”には、もちろん辛いことや悲しい出来事も含まれていますが、それを含めてただ美しく、彼らの意識が流れ去った後も残る「六つの人生からできている花」の美しさにとても惹かれます。
2016/12/20
chanvesa
6人の幼少の独白は頭に入りにくかったので、帳面に整理してから読み進めていくと、6人の個性が冒頭に包含されているような気がした。成長と変化は同一ではない。彼らは年齢的な成長はするが、ある種の経験を引きずっているような気がする。ロウダ(本書中最も共感できる悲しみを秘めている)は、「私はここに存在しないのですもの。私には顔がないの。」(36頁)と少女の時に言っている。ルイスとジニイのキスは思い出ではなく見たスーザンにとってトラウマになっているかのようだ。ロウダは自分の存在と折り合いがつかなかったのだろう。
2018/06/10
chilly
他の訳では挫折してしまったけど、今回はおもしろく読み通せた。 登場人物6人は輪郭があいまいでありながら、唯一無二の個性を発する。 ウルフは登場人物について書く作家ではなく、登場人物とともに生きる作家という印象をうけた。 タイトルの通り、波がキーワード。人生を波にたとえている。空は海の写し鏡であり、他者や環境のように思えた。 波と空が反響しあう様子を岸辺で見つめるウルフの態度が好き。 地球を輪切りにして客観的に分析する立場では、海と空の交わりは描けない、ということに気づかせてくれた。
2021/03/27
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