リンさんの小さな子
リンさんの小さな子 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
戦争によって故郷を喪失し、そして息子夫婦をも失った老年のリンさん。彼が密航船で辿り着いたのはフランスのどこかの港町。今、リンさんが唯一所有しているのは、息子夫婦の忘れ形見である乳児だけだ。言葉も通じず、したがってコミュニケーションの手段も奪われていた。そんな中での妻を亡くしたバルクさんとの奇妙な友情物語。言葉で表現されながら、言葉での表現を超えた、心と心の本当の意味での繋がりを描く本書は、まことに稀有な場所に位置する小説だ。リンさんの歌う故国の女歌が、物語の抒情と余韻を喚起する。
2018/02/24
KAZOO
小説というか、エッセイというかそのような感じを受けます。結構悲劇的な話なのでしょうが、そこのところをあまり感じさせない気がします。実際は難民問題などのことがあるのでしょうが。言葉は通じなくても人間の暖かさが伝わってきます。人の交流の原点のような気がします。このような話では年をとると涙腺が緩んできてしまいます。
2016/03/01
アン
戦争で家族を失い、故国を追われ異国の地に降り立ったリンさん。幼子を強く抱きしめて。やがて出会ったバルクさんとは言葉は通じませんが、声の様子や笑みによって思いを感じ取り、心を通わせていきます。口ずさむ故郷の歌、大切な妻の写真、蘇る過去への慟哭。二人の凄惨な戦争の経験と喪失により、言語の壁を乗り越え生まれた友情と共に、「小さな子」へ向ける愛の眼差しが心に深く残ります。どんなことがあっても守り抜きたい強い想い。それは生きる拠り所であったのだと。明かされる真相に哀しみが滲みますが、奇跡を願わずにはいられません。
2019/12/18
はたっぴ
『洋子さんの本棚』より。難民となったリンさんが幼子と逃れた国で築いた異国人との友情に涙ぐみ、ゆっくりと二度読み。本書では戦争の愚かさと人間の冷酷さに打ちのめされるが、傷つけば傷つくほど癒される不思議な作品である。戦争で家族を亡くしたリンさんが異国の地で出会ったバルクさん。二人が言葉の壁をものともせず、噛み合わない会話で心を通わせる様子が胸に沁みて思わず落涙。バルクさんにも根深い苦しみがあるが、リンさんによって浄化されていくのだ。この世には微笑みと温かい手で救われる心がある。私もこの作品に癒され救われた。
2017/12/14
ふう
悲しみを知る二人の老人が、たとえ言葉は通じなくても心を通い合わせて寄り添っていく姿に、感動ともうこれ以上の悲しみが押しよせませんようにと不安を覚えながら読み進めました。頑なに扉を閉ざして生きていくこともできるのかもしれません。でも、温かい手にふれたとき、本当はこの温かさを求めていたことに気づきます。それが人生にとってどんなに大切で価値のあるものか、失ったことのある人にしかわからないかもしれません。そして、そんな二人に訪れた奇跡…。奇跡を信じていいんですよね。
2017/10/16
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