四つの小さなパン切れ
四つの小さなパン切れ / 感想・レビュー
ケイ
命が尽きようとしている老女がさし出したカビの生えた小さな四つのパン。若いのだから生きてアウシュビッツでの事を証言してと老女は言った。殆どの命が奪われたが、生き残った人達もいる。絶望しかないような所で、それでも光り輝いて残るわずかな善意があった。決して噛まず、一度などこっそり身体を擦り付けたシェパード。彼女の凍えた足を新聞で擦り木靴を与えたドイツ監視兵。脱水になりかかった彼女に誰かが与えた水。それらの人間性は、生きる力を与える。恨みではなく、光るものを、彼女は血反吐を吐くように語っている。
2017/02/15
新地学@児童書病発動中
名著『夜と霧』と共通した内容を持つ本。ただしこちらの作者はユダヤ系ハンガリー人で、本文が首尾一貫した散文ではなく、断章や詩が含まれているところが異なっている。『夜と霧』のようなインパクトは持っていない気がするが、ナチスの非人道的な行為は鮮やかに伝わってくる。絶望だけではなく、希望も描かれていて、本のタイトルにもなっている収容所でかびた4つのパンを老女からもらうエピーソドは、絶望の只中にも救いがあることを、読者の心に刻みつけるものだ。
2014/06/29
藤月はな(灯れ松明の火)
青春の真っ只中にアウシュビッツに収監された直後、母と妹が処刑されたことを知らされ、戦後、生き延びて出てこられたマグダ・オランデール=ラフォン。永遠に気まぐれに続く点呼などによって人間の尊厳を剥ぎ取られ、生き残るために人のパンを奪い去るという人間性を見つめながら彼女は人としての尊厳を見失わなかった。まだ、生きている人を見捨てなければならなかった苦悩、「私は助からないから若いあなたが生きて伝えて欲しい」と4つのパン切れを与えた老婆、「飢えを知らない人はパン切れが与える喜びを知らない」という言葉が胸打つ
2015/05/21
里季
ハンガリーの女の子マグダはある日突然ユダヤ人であるという理由でアウシュヴィッツに送られた。これまで、様々な体験談、ドキュメンタリー、小説、シンドラーのリストの様な映画で、知ってはいたが、この作品は一味もふた味も違うものであった。あまりの過酷な経験をしたマグダはずっとこのことを沈黙に伏してしまい、そして口を開いた時には、その経験とは対照的な美しい言葉の数々がこぼれ出てきたのであった。まるで磨かれた真珠のような言葉が、しっかりと力を持って彼女の心を映し出したのであろう。全編が美しい詩のようだった。
2013/12/24
天の川
アウシュビッツからの生還。「わたしたちは生きのびなければならない。わたしたちには生き証人が必要なのよ。」そう言われて託された命。しかし、自分だけが生きていることへの悔恨は少女を30年以上も沈黙させた。フランクルの『夜と霧』のような細密な強制収容所の記録ではなく、30年以上自問自答を続け、葛藤を乗り越えた女性の生についての内省の記録だ。訳者が感じられた、書かれ方の特異さ、象徴的な強い言葉、異様な手触りが、この証言を深く深く胸に刻みつけていく。⇒
2016/08/06
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