夕暮の緑の光 (大人の本棚)
夕暮の緑の光 (大人の本棚) / 感想・レビュー
さらば火野正平・寺
近頃は野呂邦暢がミニマイブームなので、『愛についてのデッサン』読了後、こちらのエッセイ集にも手を出した。岡崎武志編なので、古本屋のエッセイや文学の随筆もしっかり入っている。野呂さんが不遇な時もどんな時も、生涯をかけて文学、音楽、映画、絵画といったあらゆる芸術に夢中であった事がひしひし伝わる1冊である。私がつくづく共感したのは、「文学はひとりでは理解できないのではないか」という意のエッセイ。感動ってアクティブなものである。「知らねえよ」と言われる事も怖れず伝えたいものである。さすが野呂邦暢、さすが岡崎武志。
2019/12/19
三柴ゆよし
「こういう類の随筆について、私は語るべき言葉を持たない」とでも言って逃げ出したいのはやまやまだが、その手は一度使ってしまった。困った。けれど本当に、この本は言葉による感想、ましてや批評なんてものを必要としない。いくつかの箇所を読んで、それまで言葉に出来ず、あいまいなかたちをなしていたものが、ほんのすこし明瞭な輪郭を描いて立ち上がったような感触を得た。それで充分じゃないかという気がする。流れるように読めはしても、本書を読んだ経験が、すぐさま後方へ押し流されてゆくような、そうした類の本ではたぶんない。いい
2011/10/03
つーさま
<ある本>を読むまで野呂邦暢の名を知らなかった。その<ある本>とは『昔日の客』(名著!)である。著者の関口良雄は、かつて大森で古書店を営んでいた。『昔日の客』というタイトルは、彼と野呂とのやりとりに由来している。話が脇道へと逸れてしまったが、この本も『昔日の客』の同様古本屋に関する文章が多く収められていて、それだけでも満足できる。さらに野呂が住み続けた諫早の町について書いた文章も、その地に溢れる光や土の匂いをさわやかな海風に乗せて脳内へと届けてくれる。味わい深い文章とは著者のような文章を言うのか。
2013/05/28
ぱせり
美しいエッセイ集でした。住む家への思い、本への愛、小説を書くということ・・・しんとした文章の補色に、筆者の戦争体験(ことに原爆の)がある。一言ひとことを大切に味わう
2011/05/19
きりぱい
随筆の名手だという呼び声と、タイトルによろめくという直感にたがわぬ内容。十代の頃には月に1冊の文庫を選びに選んだり、旅行したらその土地の記念に本を買うだとか、全国古書店地図が旅行に必携だとか、本がらみ、書店がらみの話はこたえられないうれしさ。生い立ちから居をおく諫早の話まで、「川沿いの町で」など、町の何気ない情景に、濡れた苔はおろかホウレンソウやりんごまで光を放つ。まさに光と風のと評されるだけあるきらめきと、静かなのに考え深い文体に、おもむろに心をとらわれてゆく読み心地。
2010/08/21
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