夕暮の緑の光
夕暮の緑の光 / 感想・レビュー
kochi
長崎からの疎開先、諫早にて、当時小学生の野呂邦暢は原爆投下の閃光を目撃、家業が傾いて入隊した自衛隊での経験を小説化して芥川賞を受賞するも、42歳で急逝した。わずか十五年少しの活動期間の彼のエッセイから選ばれて編まれた本書。新聞にちょっと載ったコラムのような短い文章が主体だが、しかし、心に染みるものが多い。正直に言うと無性に野呂邦暢を読みたくなっている気分。エッセイの中でも古書店関係(山王書房の関口店主の『昔日の客』と対応する話も含む)と地元諫早への愛着を描いた作品が特に良い。
2020/12/06
michel
作者の文学に対する愛を感じる随筆文たち。表代作「夕暮の緑の光」より〈ー優れた芸術に接して、思いを語る友が身近にいないという欠乏感が日々深まるにつれて私は書くことを真剣に考えた。…充分に磨きのかかったやりきれなさが必要であった。〉とある。彼の孤独や欠乏感が、純度の高い硬質な文章に縫い込まれている。あらゆるものをじっと真っ直ぐ丁寧に見つめる一人の孤独な作家。濃厚な陰鬱の中で、濃厚な小説を生み出すさま。
2023/09/14
ふわふわのねこちゃん
野呂邦暢は初めて手に取ったが非常によかった。流れる水のようなさわやかで清潔な文体でどの随筆も風景描写が瑞々しかった。随筆なので内省的な事・日記的なことも併せて書いてあるが素晴らしいのは自然(外界)を見つめる目がなんら内面的感情と結びついて認識されてないこと(例えば失恋したら恋人と過去デートした街も悲しく見えるだろうが、そういったものがない)しかし外界の世界と自分とかひとつの世界の中にあることがわかるというような、世界と自分が分かたれているけど調和しているところが良かった。激しいものが見える所も良い。
2021/03/28
アンパッサン
ついに野呂邦暢に手を付けたよ。ほんとに、ほんとに腰の据わったむだのない随筆。平明。ふるびていない。日常を、ちゃんと見ようとしてるのが細部に滲んでいてとてもよい心地。小説を読むのはこれからになる。いいね!
2023/11/26
月音
端正で抑制された文章。多くを語らない筆致がその後の出来事や筆者の思い等、様々に想像され、さざなみのような余韻を残す。好きな古本屋めぐりと古本の話、映画館・喫茶店通いに気ままな街歩き、思い出に残る人々、青春の日の挫折と焦燥、帰郷と自衛隊への入隊…。それらの背景に戦後の混沌とした東京の喧騒と、九州・諫早の美しい自然、住民の穏やかな営みが見事なコントラストをもって活写されている。なぜ書くのか、これまで何を書いてきて、これから何を書くか、真摯に自己と向き合う姿勢に筆者の早すぎる死が惜しまれ、目頭が熱くなった。
2022/07/23
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