テナント
テナント / 感想・レビュー
ヘラジカ
日本でも人気が高いマラマッド。この作品は唯一未邦訳だった長篇小説ということで、これは何かあるなと身構えていたが、予想通りなかなかの怪作だった。今になって翻訳された理由と同時に、今まで翻訳されてこなかった理由も分かってしまう。悪夢が広がる終盤は、まるでソローキンを読んでいるような感覚だ。マラマッド作品は『アシスタント(店員)』しか読んでいないので、ここまで強烈な展開になるとは思いもしなかった。どこかの段階で現実とレサーの狂気がすり替わっているという解釈で読んだがどうなのだろう?しかし、楽しい読書だった。
2021/01/20
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【この物件、退去者絶賛募集中。】取り壊し寸前の集合住宅に、居座り続ける最後の男。その職業は、作家だ。エンディングをなかなか決められぬ男の前に、予想外のライバルが(不法に)入居!心身共にボロボロ、もう引っ越したらええやん!な状況になっても彼らはひたすら粘る。家主の懇願?彼女の提案?内なる声がかき消す。生きる理由はただひとつ、書くためだ▼ラストは「ええっ…」と脳内絶句。作家道って武士道だったの!?
2022/04/04
まこ
ウィリーは黒人であることをネタに作品を書くけど、ユダヤ人のレサーはどうだろう。廃墟に引きこもって変化がない。レサーの小説は引きこもった自分自身を描いた作品だった。自分の中に入って気づかないから、ウィリーを自分の側に引きずり込むし、根本は変わらない。レヴェンシュピエールは変わるようレサーに刺激を与えていたけどダメだった、それは彼も強固に変わらないトコがあるから。
2023/01/02
刳森伸一
人生の悲しみや喜びを抒情的に描くことが多いマラマッドの長篇小説だが、そんな雰囲気とは異なる異色作となっている。ユダヤ人と黒人との間の断絶に挟まって藻掻く主人公レサーはアイデンティティポリティクスに苦しむ人々の肖像ともいえるが、それよりも長年書き続けてきた完成間近の原稿を奪われても、再度最初から書き直そうとするレサーに心を打たれてしまった。
2021/09/11
sputnik|jiu
取り壊し寸前の廃墟のようなテナメント(アパート)で、10年にわたって書き続けている作品をまさに完成させんとするユダヤ人作家のもとに、「どこまでも黒い」作品を書くことに執念を燃やす黒人作家があらわれる。表面上は作家同士の友情めいた関係が続くが、やがてお互いへの歪んだ憎しみに変わっていく。ラストは地獄。 作中で「小説を書くことは、自身の感覚を拡張する行為である」という趣旨の言葉があるが、これをマラマッド自身に還元すると、愛も忍耐も寛容も、この小説の中ではどれも行き詰まってしまっているのが感慨深い。
2024/05/20
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