僕は、そして僕たちはどう生きるか
僕は、そして僕たちはどう生きるか / 感想・レビュー
ヴェネツィア
本書は巻末の参考文献にある吉野源三郎『君たちはどう生きるか』(岩波書店)に強く触発されて書かれたのではないだろうか(こちらは未読なので不確かだが)。いつもの梨木香歩の物語に比べると、メッセージ性が直接的に過ぎるように思われる。14歳の「僕」の一人称体で、たった1日の出来事(回想はあるが)として語られるのだが、「群れから離れて生きる」ことと、「温かい絆の群れ」といった二律背反を巡るテーマの追求が、あの梨木流の魂が震えるような物語になるには、さらなる醸成が必要だったのではないだろうか。
2012/06/19
さてさて
『命は本来、その命を呑み込む力のある別の生命力によって奪われるもの』、『泣いたら、だめだ。考え続けられなくなるから』というような今まで見たことも、聞いたこともないような視点からの言葉が次から次へと投げかけられるこの作品。巻末の参考図書に並ぶ『学徒出陣』、『兵役拒否』、『教育勅語』などの言葉の重みが、梨木さんのこの作品執筆への強い思いを感じさせるこの作品。「僕は、そして僕たちはどう生きるか」。14歳のコペル君の会話の中に圧倒的なまでの説得力を持って語られる人間の本質を問う展開に圧倒された、そんな作品でした。
2021/12/10
風眠
ずっと読んでいたい気持ちはあるのに、何度も本を閉じてしまうような、息苦しい感覚になった。それはたぶん、人としての自分と対峙することになるからだと思う。教室に数名いる不登校が「普通」、離婚も「普通」、いかがわしいものが子どもの世界に入り込んでいることも「普通」、全体主義であることが「普通」、そんな一部の大人が牽引していることに、いったいどれほどの子ども達が犠牲になっていることか。こうした歪んだ時代の変化に、鈍感になっていた自分に気づかされる。読み終えて、思い出してはまた考える、とても豊かな物語だと思う。
2011/06/25
紫 綺
草木の薫り、季節の流れ、自然の理、梨木さんらしい表現で始まる物語。しかし根底は、人間の性というか群の善し悪しを描く。よかったら、ここにおいでよ。ここが君の居場所だよ。
2017/01/15
Gotoran
吉野源三郎箸『君たちはどう生きるか』を下敷きにして書かれた本書。著者らしく、草木等の自然描写は素晴らしい。が、環境保護、良心的懲役拒否、戦前の集団、国としての全体主義、個の思いを踏み躙った命の教育、理不尽な性的虐待に関わる挿話から著者のメッセージがストレートに伝わってくる。個人と国、或いは個人と社会、個人と集団や群れ。ひとりでは生きてゆけない人間ではあるが、群れの中で生きてゆけない人間、個もある。そういう人とどう関っていくか。或いはそうなったとき、人は、我々はどう生きてゆくか。重く、繊細かつ深い問題だ。
2014/04/08
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