かあちゃん (ハルキ文庫 や 7-3 時代小説文庫)
かあちゃん (ハルキ文庫 や 7-3 時代小説文庫) / 感想・レビュー
佐々陽太朗(K.Tsubota)
ここに描かれた主人公達はバカです。もっとうまい立ち回り方があるだろうに、真正直に生きようとしたり、己のことを後回しにして人のために何かをしようとする。ひと言で言えば不器用なバカ正直。何に対してバカ正直なのか、それは自分で決めたこと、自分の価値観に対してバカ正直なのです。損得も後先もない。自分はこう生きると決めたらそう覚悟する。そういう生き方がここに描かれています。人を出し抜いてやるとか、人をだましても儲けたいといった昨今の小賢しい輩とは全く違う生き様に感動を覚えます。
2019/01/27
じいじ
5篇の短篇集、表題作が読みたくて積んでいました。3篇は既読でしたが、山周小説にはハズレがないことを改めて確認しました。【かあちゃん】早くに亭主に先立たれて、5人の子供を女手ひとつで育て上げる、頼もしいお勝が主人公の話。このお勝さんは、外に困っている人がいれば黙っていられません。或る夜、家にコソ泥が侵入。「食えないから…」とボヤく男を諭す、お勝さんがカッコよくて泣かせます。巻末の宇江佐真理の「他人を思いやる心」と題したエッセイもとても良いです。お薦めの一冊です。
2023/06/15
KEI
5編の珠玉の短編。甲乙付け難いが強いて挙げれば表題作の「かあちゃん」が良かった。女手で5人の子を育てながら、人が困った事には黙ってはいられないお勝。家族総出の倹約と働きで2年半の入牢から放免となった源さんの暮らしを守る為の資金を用意する。その家族とのやりとりに味があった。それは「こんち午の日」の豆腐屋の塚次にも共通する。黙々と日々を過ごし、誠実な彼ら姿が読んでいて心地よい。現代がこんな時代だからこそ、一服の清涼剤になるのだろう。
2023/06/22
ドナルド@灯れ松明の火
各社で出版され収録されている人情短編を集めたもの。町奉行日記、かあちゃん、末っ子、こんち午の日、「ひとごろし」の5作だが、やはりタイトル作「かあちゃん」のお勝の生き方が素晴らしい。3作は既読だったがかなり記憶がぼんやりしていた。解説が豪華で宇江佐真理はかあちゃんだけの解説で、編者でもある竹添敦子の解説もなかなか良い。昔山本周五郎を読み倒して後、しばらく離れていたが、また周五郎作品を手に取って読むのも悪くないなと思った。
2013/05/12
よこしま
短編集ですが、一作を批評させて頂きます。若き頃の松田優作が主演を務めた映画『ひとごろし』。主人公・六兵衛は城中で笑いものにされてる程の臆病者。城主に雇われた剣客・昴軒が、剣で勝てず嫉妬で襲った家臣達を斬ってしまい、逃亡。自分のために嫁の貰い手もない妹に責任を感じた六兵衛が敵討ちに渋々手を上げるのですが、道中が面白い。剣で勝てない彼は旅中、昴軒が泊まる宿や食堂でひたすら「ひとごろし」と叫び続け、周囲が逃げまくる毎日。要は頭脳戦です。結果までは述べませんが、死ぬと解っている戦に皆さんは出兵できますか?
2014/03/29
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