ジャングル (アメリカ古典大衆小説コレクション 5)
ジャングル (アメリカ古典大衆小説コレクション 5) / 感想・レビュー
ケイ
食肉処理工場の過酷な労働条件、杜撰な衛生管理、利益を上げるための誤魔化し。移民をほぼ根こそぎ喰らい尽くすシカゴのパッキングタウン。老人、子供、女、弱いものから死んでゆく。労働者の権利に気づいたら、排除される。これではゾラの「ジェルミナル」ではないかと思ったら、コナン・ドイルが作者のシンクレアをアメリカのゾラと呼んでいたらしい。セオドアルーズベルトに行動も取らせ、チャーチルをも刺激した社会派小説。一昨年に訪れたNYでのミートパッキングエリアの雰囲気を思い出した。今は一番ホットらしいが…、皮肉なものだ。
2017/01/17
まふ
リトアニアから一家12人で米国シカゴに移民してきた人々の報われない苦闘の記録。言葉も分からず移民する勇気を自分は持ち得るだろうか、と思うが、アメリカへの移住にはそれを可能と信じさせる希望の灯があったのだろう。主人公ユルギスは巨大な食肉処理工場で肉体労働に従事し一家でマイハウスを買うが手放さざるを得なくなり、飲酒に溺れ一家は四散し自身は浮浪者に落ちぶれる。流転放浪の果てに最後は社会主義者に拾われて自ら社会主義を目指す。食肉工場の屠殺のプロセスがリアルで息をのんだ。G1000。
2023/10/20
NAO
20世紀初頭のアメリカの深刻な社会問題を描いた自然主義小説であり、暴露小説である。移民たちが行きついた先のシカゴは独占的な食肉加工品の一大工業地帯で、そこではありとあらゆる社会悪がはびこっている。劣悪な労働条件の中でも人々は生きていくために工場主の言いなりになって奴隷のように働くしかなく、病気や怪我で病院に入院すれば、おぞましい加工食品の人体モルモットとなる。独占企業であるために起こる腐敗の闇は暗黒のジャングルを思わせるが、こういった加工品を平気で売ることができる人の精神状態は、どうなっているのだろう。
2016/02/25
ブラックジャケット
アプトン・シンクレアの1906年の衝撃作。東欧からの移民ユルギスは堂々たる肉体で、シカゴの食肉加工会社に入った。彼の視点で、苛酷な労働環境と劣悪な衛生状を告発する。さらに移民を食い物にするシカゴの住宅業者など、アメリカンドリーム自体のいかがわしさをこれでもか、という怒りの筆致で描く。妻は職場の上司に手籠めに遭い、ユルギスは上司を殴って刑務所へ。ユルギスの苦難は続く。20世紀初頭の資本主義の荒っぽさから、社会主義は多くの支持が集まった。本書の終盤は社会主義のプロパガンダになってしまったが爆弾級の衝撃波。
2023/07/13
kuma
圧巻! 生死を彷徨う貧困。その恐怖を描いて余すところがない。 食肉加工工場の凄惨極まる描写はまさに地獄絵図。 積み上げた肉の上に、一握りも二握りも掴めるネズミの糞と、毒死したネズミの死骸と共に肉といっしょにホッパーに入れられて加工されてしまう。 狂った資本主義に対峙して、終盤語られる社会主義の世界は、まさに21世紀の現在喧しく論じられているAIテクノロジー社会やブルシットジョブを予見させる論にも及んでおり、一瞬タイムスリップ物のSF小説を読んでいるような錯覚を覚えた。
2022/05/05
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