中野正彦の昭和九十二年
中野正彦の昭和九十二年 / 感想・レビュー
ふじこ
安倍晋三元首相暗殺を予言した小説として回収されてしまった本作。安倍晋三元首相を「お父様」と慕う男性が残した日記。事実と妄想が混在した文章に頭の中を侵食されそうで恐ろしくなり、読み終えるまでに時間がかかってしまった。それでも止まることを知らない皮肉の端々に確かな樋口毅宏らしさを感じて嬉しくなる。この本が多くの人に届かない状況であることがとても歯がゆい。読み終えた今も、どうしてこの本が回収されなければならなかったのかわからずに暗闇の中でぐるぐるしている。本作は断じてヘイト本ではない。
2023/02/12
arnie ozawa
安倍晋三の暗殺を予告した、なんていうことやネット炎上を起点とする回収(それにより入手できない本になったが)などの話題よりも、この異常な世界観と個人の日記という形態を取ることによる現実と意識の乖離(ところどころに現れる綻びが怖い)に惹かれる。しかし、これを差別を理由に訴えた出版社社員には、出版社で働きながら表現とは、フィクションとはということに思い至らない愚かさに絶望させられる。
2024/07/10
清 義明
21世紀版の『セヴンティーン』『政治少年死す』(大江健三郎)ですね。 『十九歳の地図』(中上健次)にもつながる系譜の、テロ少年小説です。 主人公がネトウヨのディストピア小説なので差別用語満載。 読者を選ぶ内容だが、もちろん通底は反差別なのは間違いないので、そのへん議論を呼んでしまうかも。
2022/12/18
Tom
発売前に回収されてしまった本。実在の人物名をあれだけだしてあんだけのことを書いたらそりゃ回収も止むなしか。帯に※一切関係ありません、と書いたってねえ。しかしべらぼうに面白い。安倍晋三を「お父様」と慕うネトウヨをこじらせた若者による日記の体をとっており、舞台は2017年の日本。2017年といえば森友学園問題。安倍政権の腐臭が最もキツかった時期だ。いま読むと安倍をはじめ石原慎太郎など鬼籍に入っている人物が多い。基本実在の人物なんだけどたまに架空人物もいて「誰だっけ?」ってなってややこしい。
2023/03/19
Mr.Hiyoko
一読してどう読んでも書店から消す理由のなかった本というのはわかる。しかしてこの本がむしろ左派の側から消されたということは象徴的で考えるべきことがあるような気がする。というのも、この本、小説としては全然つまらんのだ。確かに取り扱っているテーマは大江のセブンティーンや中上的なテロ小説の系譜ではあるのだが、まったくその深みがないというか。端的に「浅い」。もちろん読者は安倍政権に対しては批判的だし、うんざりするような差別を激しく軽蔑することはこの小説とともに全く同意することだろうと思う。
2023/09/18
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