林芙美子詩集 (現代詩文庫)
林芙美子詩集 (現代詩文庫) / 感想・レビュー
SIGERU
林芙美子は、私にとって、成瀬巳喜男監督の名画『浮雲』『めし』の作者。体を張って小説を書いた、恋多き捨て身の文学者という印象だった。しかし、生涯の詩を纏めた本書により、詩を書く少女がやがて、逞しい作家、林芙美子にメタモルフォーゼしていく姿を通鑑できた。十代の習作から始まり、東京で女工や女給を遍歴しつつ、男たちと同棲をくりかえす生活がそのまま、叩きつけるような詩となって迸る。売れっ子作家となり、48歳という若さで生涯を終える頃の戦後詩は、むしろ内省的で、多忙をきわめた芙美子の、当時の心境が偲ばれる。
2021/06/06
しお
「朝の愁歌」朝起きて庭を眺めていると/私には何もなかったことが判る/草露がこんなにきれいだ/家族の寝息も沓かな消息をきくようだ/躑踞んで濡れた土を見ていると/見たこともない虫が歩いてる。 (菓子盆へいれて) 菓子盆へいれて綺麗にながめて食えばよいものを/わたくしは台所へ立って盗人のように立って菓子を食っている。/しずかに椅子へ腰をかけて本を読めばよいものを/わたくしは人にかくれて息をころして本をよんでいる。/無作法な「自由」がわたしにはのぞましい
2024/07/27
感想・レビューをもっと見る