傘の死体とわたしの妻
傘の死体とわたしの妻 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
連作詩集。その全編に漲るアポロン的な晴朗さは、西脇順三郎や稲垣足穂を想わせもする。ここでは文章や文脈が、時には言葉そのものが思いのままに解体される。そして、そのことによってこそ、そこに新たな言語空間を構築しようとするのである。すなわち、それは言葉の強固さへの信頼に支えられているのだとも言える。また、同音異義語に導かれて、ねじれを起こしながら連鎖してゆく言葉の流れは、躍動的なまでのリズムを作り出す。そしてそこには固有の不思議な世界が、けっして静止することなく、走馬燈のように景を移しながら流れて行くのである。
2014/05/20
まさむ♪ね
裁断して裁断して裁断する。そして、くっつけてくっつけてくっつける。頭に手足、目も口も鼻も耳も、髪の毛、産毛、性器やお尻の穴にいたるまで、ありとあらゆるものがあらぬ場所から生えている。比類なき言葉のメタモルフォーゼ。それでもそこに物語めいたものを認めずにはいられない。知らず知らずの脳内変換。あ、消えたと思ったら不意に姿形をかえて現れる。あのプリンセステンコーもびっくりぽんのめくるめく言葉のイリュージョン。ところで、この本のタイトルは「傘の死体とわたしの妻」、ああなるほどそういうことね、とはなかなかいかない。
2016/02/17
マカロニ マカロン
個人の感想です:B。多和田さんの小説は言葉遊びが多く含まれ、ストーリーを追う以外の楽しみもあるのだが、本作は詩集なので、ストーリーがないだけに言葉遊び炸裂。「すっぽり はまり絵 膣与え 乳与える(女) 顔だけ ナスび の影になって見えない 家族写真 三十歳 これは(穴た)ではないですか 卵子など投資しなかったはずなのに…」人前で声に出して読むのは憚られる下ネタ炸裂の単語が並んでいるが、こっそり声に出して読んでいると独特のリズムが心地よい。その点で最も好きなのは『想像中絶』「もしも死 はらんだらオランダ…」
2023/02/11
haruaki
足りない末尾を胸の内で返し、余分な文字のリズムに戸惑い、言葉の意味と意味のない言葉との関係を少しだけ考えても、タラタラと溢れていってしまう言葉達。肉感的で冷たい肌触りが心許なく美しい。詩と小説のあいだにいるような心地で頭や体の中をするすると流れていく語感と自由さをただ味わった。
2020/08/27
∃.狂茶党
傘の死体ってのは、解剖台の上でミシンと出会うあれかななどとと思いつつ。 冒頭の一篇から、リズミカルでよくわからない言葉の連なり、文字列に乗っかってしまう。 よくわからないから説明できないけど、きちんと情景や心の揺れ動きが伝わってくる、物語を読むような感覚はなんだ。 あまり詩集は読まないけど、(学校の授業を別にすれば詩を音読はしたことないけど)この本はとても楽しい。
2022/10/16
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