舌の先まで出かかった名前
舌の先まで出かかった名前 / 感想・レビュー
NY
「野にも港にも読み書きができる者が誰もいなくなった時代」の美しい物語。文学的な意図は正直、全く分からないが、短く詩的で情感豊かな文章に心惹かれる。妻が隠していた「事情」を知るやいなや即座に冒険に出る夫。せっかく掴んだ「名前」を妻に伝えようとすると「舌の先から消え去ってしまう」もどかしさ。諦めずに再び旅に出る夫。穏やかなハッピーエンディング。爽やかな北国ノルマンディの風物。。。全てが好きで、20年前に買って以来、時々読むお気に入りの一冊だ。
2019/02/02
belle
地獄はどこにある?穴の中に。海の底に。山の裂け目に。あらゆる所で地獄は口を開けている。もどかしいほどに言葉は出てこない。「Langue」から「Language」への道は遠い。『アイスランドの寒さ』で表題作に導かれ、途中石になりそうだったが『メドゥーサの首』の様々の断章に懸命についていく。忘れる恐怖の先に愛は変わらずそこにあった。つい先日この本の訳者高橋啓さんのお話を伺うことができた。本作ではなく別の作品のトークイベントだったが、お会いできた記念に再々…読。キニャールを追いかけるきっかけになった一冊。
2018/11/18
uni
唸る程難解。しかしキニャールの文章は最後まで読ませる何かがある。言語の失調、仮面という顔論、派生する記憶論。言葉が失われるということは、私達の内部の言葉は後天的なものだということ。小説は論説よりも本当の事を語り、論考はいつも舌足らず。言葉の中で声を禁じ、嘔吐のような動きのなかで唇に戻ってきて、言葉になる直前で壊れてしまうもの、それが感動。全く手が届きそうにない論理ですが、それでもキニャールの作品には心が鷲掴みにされる。
2013/11/20
ホレイシア
これ、書き手側でいろいろ言われているのがよくわかる。最初にタイトルの、一見何てことないが実は奥が深い「小説」を持ってきて、その後に書き手としての「言葉」の定義が語られる。舌の先まで出かかった言葉、言語。何かを語ろうと思えば必然的に「小説」の形をとらざるを得ない。いろいろこねくり回したくなる面白い1冊。
2011/06/17
刳森伸一
序文的散文「アイスランドの寒さ」、民話風のコント「舌の先まで出かかった名前」、そしてその哲学的背景の概説である「メドゥーサについての小論」を所収。コントは面白いが、「メドゥーサ…」は良くも悪くもポストモダン的な文章で個人的には今一つ。
2017/07/07
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