島とクジラと女をめぐる断片 新装版
島とクジラと女をめぐる断片 新装版 / 感想・レビュー
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本作の内容は、須賀さんがあとがきで端的に言いあらわしておられますが、アソーレス諸島および周辺の、海とクジラと捕鯨にまつわる、さまざまな《断片》を纏めたもの。タブッキの特徴でもある断片性と隠喩の可能性を、ほとんど極限にまで押しすすめつつ、有機的なまとまりを感じさせるような、一風かわった作品。終章「ピム港の女」がよみやすく、突出してよかったです。他は難解な印象でよみづらかったけれど、べつの機会によむとまた違った感想をもつかも。ジュール・ミシュレの『海』よんでみたいと思いました。
2016/05/09
三柴ゆよし
まずたいせつなのは、これが鯨について書かれた本ってことで、捕鯨に関する文書類からメルヴィルの『白鯨』、またはミシュレの『海』まで、ともすればとりとめのないよせあつめのように思える文章が、アントニオ・タブッキという作家のことばとゆるやかにつながっていくことで、おぼろげななにかが静かに浮かびあがってくる、そんなたぐいの本なんだ。鯨といえば先にも書いた『白鯨』だね。メルヴィルにとって、鯨とはこの世界の象徴、ではなくて、世界こそが鯨の象徴であり、読みとかれることのない謎だった。そんな気がするんだが、どうだろう。
2012/03/29
かもめ通信
ひとり、タブッキ祭り開催中につき、ひさびさの再読。 「世界も難破しかかっているのだが、だれもそれには気づかない。」と海を見つめた人が憂えば、「やっぱり、彼らは、悲しいにちがいない。」と、人を眺めながらクジラが呟く。そして私はタブッキの紡いだ言葉を拾い集めながら、サウタージの波間を彷徨い続ける。いつも。いつまでも。
2014/09/18
rinakko
再読。うとり、大好きだ。掴もうと伸ばす指先にあえかな感触だけを残してすり抜ける、夢みたような幻みたような青いクジラたちの姿を追う幾つかの断片。差し出されるがままに読み繋ぐ。砂に描いたチェス盤で遊ぶアソーレスの兄弟、クジラたちの孤独や遠い祖先の記憶について、いなくなっていく捕鯨手のこと、ウツボを呼び寄せる言葉のない歌。クジラたちは昔、地球の正反対の地点から交信していたと…淡々と告げられてもの哀しい。沈むというわけでもなくあてもなく、くすんと儚い読み心地にひたる。難破しかかった世界。大西洋の青を広げてみる。
2016/06/28
ネロリ
並列だと思っていた断片は、振り返ってみれば直列でもあったような、不思議な読後感。物語も史料も引用も記録もすべてが、島とクジラと女をめぐり、死の香りが漂う。須賀さんの選んだこの邦題、ぴったりだと思う。クジラは隠喩であると書かれている。読み重ねるたびに、奥行きが変わるのかもしれない。今回は借りたけど、欲しい。
2012/05/05
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