シャーロック・ホームズの深層心理
シャーロック・ホームズの深層心理 / 感想・レビュー
浅香山三郎
NHKのBSでホームズのドラマの再放送を見たりして、ヴィクトリア朝時代の社会の描かれ方に興味をもつた。本書は、上流階級が過剰に体面に拘り、新興中産階級の勃興や植民地支配の「恩恵」で急速に発展する英国の時代相を手がかりに作品を読み解く。ただし、ドイルが改変したかも知れぬ物語の「原型」を大胆に推測するところは、やややり過ぎ感もあるか。ホームズ研究史にも一節を割き、文学作品といふテクストに註解を施すやうな方法で、古典的推理小説を二度愉しむやり方をシャーロキアンが見出してゐたこともよくわかる。
2022/11/12
Gen Kato
読みはじめて気づいたが再読だった。20年くらい前はこういう分析本(というには強引さが目立つけれど)を感心して読んでいたんだけれど、現在は微妙だなあ。作家が物語を書くときに身辺から材料を拾うのを、いちいち意味づけるとこうなっちゃうのか。うーむ…
2018/07/20
Ecriture
バルト『S/Z』の影響を受け、いかなる抑圧が作品を同作品たらしめたのか、その生成過程を辿りつつホームズ作品の「元の作品」の形を想像する稀有な著作。ホームズシリーズの性の問題に踏み込んだローゼンバーグの著作からも多大な影響を受け、ヴィクトリア朝期の作家の自己検閲の問題に迫る。ポーの黒人にレイプされる白人女性(巽)よろしく、「這う人」は近親相姦、そして「ボヘミアの醜聞」は当然ベッドシーンの写真が本来は想起されていたのだろう。あまり具体的に「原型」を決定づけようとする姿勢には好感は持てないが、刺激的な一冊。
2013/05/16
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