マウスII アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語
マウスII アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語 / 感想・レビュー
NAO
アウシュビッツでの生活も悲惨だが、そこを出てからの救いのなさに驚かされる。故郷に戻っても、そこから追い出され、難民になるしかなかったユダヤ人たちの苦しみ。さらに、アウシュビッツは、過去の出来事ではなく、現在の生活にも強い影響を与え続けている。頑固で偏屈で吝嗇なヴラディックの姿に透けて見えるアウシュビッツのなんとおぞましいことか。それは、平和な暮らしの中突然自殺してしまった母や性格が歪んでしまったように見える父だけでなく、その息子であるアートにまで大きな影を落としている。
2019/04/01
Nobuko Hashimoto
作者の父母がアウシュビッツに送られるまでを描いたⅠ巻は世界的な反響を呼ぶが、作者はアウシュビッツを生きのびた父への敬意と後ろめたさ、父の経験を作品にしたことに対する良心の呵責を感じ、続きを描けなくなる。そうした悩みを精神科医に聞いてもらい、続編を描き上げる。実は、この精神科医も収容所からの生還者である。彼との対話の部分は父子関係、世代間でどう歴史を共有、継承するかを考えさせられ、たいへん興味深い。父の体験だけでなく「現在」の父の様子を挟むことで人間臭さを描き出し、重層的な作品になっている。
2016/06/05
syota
アウシュビッツを生き抜き、終戦間際の虐殺からも逃れた若き日の父と、その経験を著者に語る年老いた現在の父とが並行して描かれる。ここでの父は地獄から生還した超人的英雄ではなく、過酷な体験から性格が歪んでしまい、晩年になっても夜毎悪夢にうなされる一人の不幸な老人だ。その過去と現在を淡々とありのままに描いたことにより、この作品は漫画でありながら強烈なリアリティと説得力を獲得している。ガーディアン紙が”長編小説”を対象に選定した必読1000冊に、漫画であるこの作品をあえて入れたのも十分納得できる。[G1000]
2023/08/13
あたびー
2巻ではアウシュビッツのエピソードの前に、後妻に逃げられたヴラデックに呼び出されてリゾートで過ごす羽目になった息子夫婦の苦労話が入る。ようやく少しずつ聴き取りを始めるものの、読者は突然ヴラデックが死んだことを知らされる。アートは漫画の評判(良いんだよ)のせいで精神的に追い込まれているが、生前の録音からその後の物語を描き始める。何度も何度も死を覚悟しながら強かに生き抜いたヴラデック。戦後妻とも再会しアートが生まれても、夫婦の負った傷は癒えることがなかったに違いない。
2020/02/18
ホンダ
行進中にカポーや監視兵に殴られないため行列の前方や端に並ばないコツや、チフスでのせん妄シーン・終戦直前の赤十字の登場(その後のドイツ兵による不意の銃撃)など、細かい箇所がほとんど他の体験記と同じで驚かされる。何より芸は身を助けるものだということ。シュピルマンやフランクル同様、ヴラデックも英語や商才などがコネに繋がり生き残れたのだろう。黒人への差別意識丸出しだったり極端な吝嗇ぶりだったり、ある意味平凡な小市民ヴラデックだが、最後のコマでの「リシュウ、お話は終わりだよ」は流石に胸が詰まってしまった。
2020/03/01
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