「悪」の進化論 ダーウィニズムはいかに悪用されてきたか
「悪」の進化論 ダーウィニズムはいかに悪用されてきたか / 感想・レビュー
trazom
同志社大学での講義の再構成。本書は、ダーウィンの進化論が社会進化論として換骨奪胎され、それが、スターリンやヒトラーに援用された歴史を振り返り、最後は、ドーキンスの無神論に至るというのが柱だが、その本筋以上に、佐藤さんが脱線する数々のエピソード(神学の歴史、ソ連の成り立ち、第一次世界大戦の位置づけ、唯物史観、科学と神など)が何とも魅力的。確かに、偏った解釈もあるが、学生に少しでも多くの知的刺激を与えようとする佐藤さんの教育的配慮が滲み出ていて嬉しくなる。この講義を聴けた学生は幸せだろうなあとしみじみ思える。
2021/10/22
パトラッシュ
ダーウィニズムがナチズムやスターリン主義に悪用されたとは聞いていたが、その歴史的プロセスをここまで明快に説明する本はなかった。人類は進化するとのダーウィンの主張が社会進化論や優生思想を生み、やがて独善的な自国第一主義に成長していくまでをつぶさに理解できた。ニーチェは「神は死んだ」と述べたが、進化論が科学の発展と共に神殺しの凶器に使われたのは確かだ。神が排除されて空っぽになったところへ、進化した優秀な人間こそ至上とするマルクスやヒトラーの思想が浸透していったのだ。20世紀が大量殺戮の世紀になったのも当然か。
2021/08/29
えみ
なんでもかんでも当たり前と差し出されてきた知識を受け入れずに、物事の意味や価値に対して疑いを持って生きる事こそ社会進化論を本当の意味で理解したことになるのではないか。と思わせてくれる魅力に溢れた講義。「知」というものが改めて好奇心を誘うものだという事がこの一冊でわかる。同志社大学での講義録である本書は、本来の生物の進化を解いたダーウィンの進化論ではなくそれを独自に解釈した社会進化論として、ヒトラーやスターリンといった所謂「独裁者」に利用されてきた事実を元外務省主任分析官の佐藤優氏が語り、その神髄に触れる。
2023/01/24
ぐうぐう
同志社大学での集中講義を完全収録した一冊。ダーウィニズムがいかに悪用されてきたかを解説しているのだが、これが講義であることからもわかるように、佐藤優の優先事項は学生達の育成にある。ゆえに、本筋の背景を説明することに多くの時間が割かれ、それによって枝葉が多くもなっている。例えば、進化論を紹介する前にパラダイムという言葉の意味を教えたり、スターリンに影響を与えたダーウィニズムを説明するのにマルクスから始めたりと、丁寧な講義は幾度も脱線を起こす。(つづく)
2021/07/29
ta_chanko
ダーウィンの進化論(適者生存・自然淘汰)が転用・誤用されて社会進化論へ。人種差別が当たり前だった時代のアメリカで発達し、それを熱心に研究して採り入れたのがヒトラーのナチス・ドイツ。社会進化論から生まれた優生学的な考え方は、今も世界のあちこちに根強く残っている。似非科学やフェイクニュースに騙されず、慎重に検証可能なものを信じて行動していくことが大切。そして最後に行き着くのは「神」の存在。科学と信仰を分けて考えるのか、この世界に何らかの意思が働いていると考えるのか、すべて科学法則で説明可能と考えるのか…。
2021/09/10
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