縷紅新草
縷紅新草 / 感想・レビュー
井月 奎(いづき けい)
鏡花らしくもあり、鏡花らしくない不思議な物語です。それはこの作品がすず夫人に贈った物語だからだろうと思うのです。鏡花と言う人は物静かそうな外見に似合わず、すず婦人の助力がなければ社会生活に支障をきたす人格でありました。死出の旅に出る鏡花をすず夫人は心配したと思うのです。鏡花はその心配にこの物語でこう言います。「心配ないない。昔なじみのてるちゃんも迎えに来たし、母上も来てくれたようだ。すずや先に行っているよ」と。最高の芸術家が人の事を慮る心で創り上げた水晶細工、これほど美しいものはありはしないのです。
2016/09/18
井月 奎(いづき けい)
鏡花は怪異を借りていろいろのものを書きます。死、心、哀、狂などが今、ここにあることを知らしめ、それらが本来いるところと「ここ」はつながっていることをおしえてくれます。他の鏡花作品は「本来いるところ」と「ここ」になにかしらの結界をつくり、生と死を分けて書いていましたが、この『縷紅新草』では生と死、黄泉と現世の結界がありません。混然一体となり人も怪異も同じものとして書かれています。ぼんやりとした死を持て余す者、受け入れる者。音が無く、色彩の濃淡で表される世界の美しさは水晶をもしのぎ、鏡花の最高峰の一つです。
2016/03/24
井月 奎(いづき けい)
鏡花、最後の物語です。苦しい息のなか書きあげたそうで、死や病気を恐怖していた作家がどういう心情で書いていたのかと思うと、何度読んでも胸がつまります。その先入観があるからでしょうか、この物語は鏡花らしい出来事や話の流れなのですが、どこか違うように感じるのです。これほど鏡花らしい作品も無いように思いますが、他にこの物語と似た味わいのものが見当たりません。一言で言うと、透明なのです。静かで音も吸い込むような闇の夜、湖の鏡の如き水面に浮かんだ月の光。それが『縷紅新草』です。蜻蛉はどこへ行くのでしょうか。
2015/10/13
つきもぐら
kindleにて。電子書籍だと無料! いい時代です。書評を書けば売れるのかも。金沢に関係のある作家ということで鏡花を再読。「るこうしんそう」と読みますね。文頭の歌が初路(はつじ?)を中傷する伏線だとわかると物語が加速。身を投げる初路に思いを寄せるお米(およね?)。女性の心象を鮮やかに描く文体をコピーしたいなーと思ったりします。提灯寺は実際に金沢にあるのかしら? 関東平野を群れで飛ぶ赤とんぼ。朗読する動画とかを配信してみたい。「赤蜻蛉に乗せられて、車が浮いて困ってしまいました。こんな経験ははじめてです」
2018/05/01
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