月的現象: 詩集
月的現象: 詩集 / 感想・レビュー
雪うさぎ
家々の窓に姿を映しながら、月は天幕を移動していく。定められた航路を知らん顔して過ぎて行く。新月の夜、星はいっそう蒼さを増し、猫の瞳孔は対比して満月となる。船の穂先からこぼれ落ちた音は、ピアノの中に吸い込まれ夜想曲を奏でる。火傷しそうな程の冷たい月。触ってみようと試みるが届くはずもない。ウインクしたり微笑んだりもするけど、決して裏の顔は見せない。その神秘さにあらゆるものが引き寄せられる。月夜の中にこそ世界の謎を解く鍵があるはず。この星のたったひとつの衛星。ひんやりした夜は、猫とくるまって眠りたい。
2016/10/13
まきこ.M
ページを閉じたあとに浮かぶのは月とピアノ、そして猫の灰色の影。きっと読み返す度に違う感じ方ができる。揺れ動く2ページ毎の詩はまるで精霊になって世界中を飛び回っているような感覚。無機質の硝子や鉱石に地の光が差すよう神秘的なものもあれば、アンティークのような懐かしい匂いと手触り感じさせるものもあり、大好きなモチーフが沢山詰まっている。どこまでも揺らめく小さな輝きを追いかけて想像してほうっと溜息をついて胸躍らせながら読了です。詩や短歌、長野まゆみさんのような世界観が好きな方におすすめしたい作品。
2015/08/01
まゆら
91年刊行の詩集、月的現象。タイトルからすでに読者を独自の世界観に誘っている。開けばいつの間にか詩の世界を旅した様な気になる。月、少年、海、硝子、信号機、電車。機械的で制御された世界の硬質さ、体温の感じない世界が美しいような不穏なような。例のごとく推薦文が長野まゆみさん。 広がる冷たい世界が読み終えた後はしんみりと心地よく感じます。
2014/08/05
いやしの本棚
月的現象、という言葉の意味するもの。少年の季節(とき)、水晶の瞬間(とき)?こんなにも大人になった今読むと、そう、なんだか、戻れないあの頃、みたいな感じがする。むかし持っていたけど、失くしたもの…エミリ・ディキンスンの言う「紫水晶の思い出」みたいな。過ぎてゆくもの。なつかしい、さびしい印象。だけどそれはきっとたいせつな、さびしさ。「きみを守るのは 優しい声でも腕でもなく/瞳に焼きついた 時の色の記憶だけだろう」(「守りの記憶」より)
2018/04/30
kurumi
美しいものたちで溢れた世界の夜に、物語が生まれる。文字だからこそ、無限に表すことが可能な夢を見せてくれる宝石のような書物。どの詩も、あぁこんな世界に1度でいいから行ってみたいと、胸を弾ませる不思議な高揚感を味わえる。私も夜の小人になって、この世界に飛び込みたい。
2023/04/09
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