薄い街
薄い街 / 感想・レビュー
有理数
佐藤弓生、好きです。大変に良かった。今年はこの歌人と出会えて幸せだった、と思います。「夏の朝なんにもあげるものがない、あなた、あたしの名前をあげる」「夕立のあとなまぐさくなる街にきみの傷からかけのぼる虹」「夢を碾く わたしのゆめがどなたかのゆめの地層をなしますように」(「パレード・この世をゆくものたち」)
2017/12/29
いやしの本棚
読んでいる間幸せだった。まず引用があって、その作品に対するオマージュのような歌が並ぶという構成も好き。こういうのに弱い。冒頭の左川ちか論「少年ミドリと暗い夏の娘」、オブセッションとしての緑色に関する考察がとても興味深かった。勝本みつる『study in green 緑色の研究』の中の、いくつかのアッサンブラージュ、「a field, a home / 避暑」をことに思い出す。少年ミドリが消えていった、その先の風景を見るような…。「走っても走っても涼しいだろう死が死に絶えた午後の夏野は」
2017/06/02
テトラ
春なれば花ふみしだく蹄もてつね加害者でありたきものを/夏の朝なんにもあげるものがない、あなた、あたしの名前をあげる/ながれゆく窓に販売機のあかり映えて、えらべることがさびしい/ 短歌だけでなく、様々な書籍や音盤からの引用も興味深い歌集。知的好奇心が刺激される心地よさ。歌人の佐藤弓生さんは石川出身。卯辰山の歌が個人的にかなり好き。/風ゆきつもどりつ幌を鳴らすたび四月闌けゆく三月書房/という歌があるけれど、これは京都の三月書房のことなのかな。
2015/12/26
葵衣
好きな歌人がまた一人増えて嬉しい。/「記憶する ただそれだけをゆるされて頁の中に戦争はあれ」「夢を碾く わたしのゆめがどなたかのゆめの地層をなしますように」「そとはあめ、雨、雨、氷雨、皮膚に皮膚よせて樹木は情を知りそむ」「靴ひもをほどけば星がこぼれだすどれほどあるきつづけたあなた」「ぬばたまのピアノの胸のわが胸に圧しあてられしまま、音、音を」「さくら打ち砕かれてよりあらわれぬ地上に小惑星帯(アステロイドベルト)は」「花に箸ふれさせるとき生きてきた香りほのかにほろにがい骨」
2019/04/12
ndj.
左川ちかの作品にはじめて触れる。ずっとずっと昔、2003年ごろからこの人のウェブサイトを見ていた。鋭い言葉が小気味よかった。こうして歌集という形で手に取るとまろやかな印象だ。 「無視というやさしい声のこだまする街を通って、いまも通って、」 「蟹みたいみんなしってるかおつきのまるでしらないひとたちの街」 反芻しながら薄っぺらな街を歩く。
2018/01/11
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