優しいサヨクのための嬉遊曲 (福武文庫 し 101)
優しいサヨクのための嬉遊曲 (福武文庫 し 101) / 感想・レビュー
メタボン
☆☆☆ 大学時代、リアルタイムで読んだ。新ブンガクの旗手として島田雅彦は刺激的で、その文体も新鮮だった。ポストモダンという言葉が流行していた当時の空気感を思い出した。そして四半世紀が経過した今の読後感は、やはり「青臭い」ということに尽きるか。しばらく青臭さにつきあってみようと思う。
2016/02/04
nobody
現代文学の担い手の感性は、大江健三郎を経てここまでに成り果てたか。現代文学なんて、もはや存在しているの? かろうじて村上春樹が孤軍奮闘してるくらいだろう。しかも体制とは全く対峙せずに。神吉拓郎『ブラックバス』の方がよっぽど純文学なのに、なにゆえあっちが直木賞候補でこっちが芥川賞候補? 「『体制をからかう半音……いいね』」もはや体制は“倒す”対象ではなく“からかう”対象と成り果てた。その分、文学も矮小化してしまったのだろう。まあしかし、80年代を描こうとすればこんな風にしかならないよね。文学へのレクイエム。
2018/01/13
空箱零士
★★★ こうして左翼はサヨクになった。変革的な彼らの身振り手振りが社会的幸福に回収される存在に。残念ながら彼らは既に幸福なのだ。最早「体制」は彼らを不幸にせず、黙っていれば「幸福」になれるのだ。あるいは恋愛、あるいは日常によって。そんな彼らの「敵」は、ウエルメイドな「幸福」以外にない。だから彼らの反体制は実に反抗期的、青春的なのだ。彼らは「幸福」に反旗を翻す。その懐にウエルメイドな「幸福」を抱えて。敗れた彼らは懐の「幸福」をそっと取りだし、その「幸福」を噛めしめる。なんて幸せな時代なんだろう。死んじゃえ。
2015/07/08
Ichiro Toda
落選作全集で表題作は読んでいたが、こちらでは文庫本のためのあとがきがついていてこれがちょっと曲者のように思う。それとともに少しすっきりするというか、そういう感じで考えてもいいんだなという自由がこの小説に与えられて、誤解されやすい作品なのかもしれないと思わせる。何回か読み返してしまうと思う。
2016/01/10
さとやん
イデオロギーに傾倒して手に取ったわけではない。読後、左翼思想に感化されることもなかった。それは本書が世界を革命できない優しいサヨクによる個人の革命の物語だからだろう。収録2作に共通する特徴はその筆致と心理描写の巧みさ。特に心理描写は「良い子」として育った人間の脆さや弱さ、純粋さを独特な表現で表している。これが正鵠を射ており、個人的にいたく感銘を受けた。なんともナイーブなのに、なんとも尖がったキャラクターたちは、まるで劇を鑑賞しているような気分にさせられる。いわゆる左翼の暴力的な表現に飽きた方にオススメ。
2012/12/29
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