冷めない紅茶
冷めない紅茶 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
表題作と「ダイヴィング・プール」の2篇で構成される。どちらも、あたかも小説とはこんな風に書くのだというお手本のような作品。両篇ともにリアリズム小説なのだが、そのリアルに潜む「魔」が小説を侵食してくる。「冷めない紅茶」は不思議な空間に遭遇する。はたしてK君の家は実際に存在したのか、それにそもそもK君自体はどうなのだ。私が異界に迷い込まねばならないのは何故なのか。そして、その問いは無効である。一方「ダイヴィング・プール」に潜むのは内なる心の魔である。ここでも、何故の問いは只管に虚しい。
2022/02/20
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
透明感のある文体で描かれる静謐な物語2篇。読んだところから宙に消えていってしまいそうな儚さを感じさせる。表題作は、死の記憶を辿っていく女性のモノローグで綴られる。ペットの死、祖父の死、同級生の死。同棲相手と余生のような関係を続け、元同級生と性の香りが微塵もない逢瀬を重ねる。植物的な静かで穏やかな関係。彼が淹れてくれた紅茶はいつまでも冷めない。それは時間が凍っているから? もう一篇の『ダイヴィング・プール』は、心情風景の断片を繋ぎ合わせたような物語。あらすじを説明するのは難しいが、全篇水のイメージが漂う。
2016/05/19
metoo
著者の二十代後半の作品を読んでみた。2編収録。さらっと読めるけど、特に「冷めない紅茶」は何度も読んだ。荒削りで整ってなくて何箇所も手を入れ直したくなる作品に最初は感じたが、読み込むと、特にK君と暮らす元司書さんが古本屋に出掛け夜分まで帰宅しなかった日の描写など、冷めない紅茶を前にして、もう彼女は一生帰って来ない、いや、元々存在したかどうかさえ希薄に感じた。自分が若い時に戻り、冷めない紅茶を手の平に抱き、どうして冷めないんだろうと漠然とした不安にかられる情景がふと浮かんだ。やはり小川洋子が好きだ。
2016/10/03
藤月はな(灯れ松明の火)
同級生の自殺の葬儀で出会ったKと美しい自分の学校の司書と出逢った主人公。最後の描写が夜の海で入水したようにしか思えません。以前、酸っぱくなったシュークリームを食べた翌日に吐き気と高熱、眩暈でばったり、倒れた経験があったので「ダイヴィング・プール」での嗜虐心を満たすために孤児院で生活する子供へ腐ったシュークリームを食べさせる場面にはヒヤッとさせられました。結局、好意を抱いていた子から罪を暴かれ、何事もなかったかのように孤児院で生活することを選ばざるを得ないということが罰となったのだろうか。
2014/07/18
MINA
ここ最近、小川洋子の本を結構読んでるから慣れてる筈なのにやっぱり掴めない。一つ一つの文章は綺麗で澄んでいるのに、何故だかラスト間際になるとぞっとする。得体の知れない何かが迫ってきてるような恐怖。表題作は、サトウとの関係はきっと倦み疲れ過ぎて憎しみにも近い感情があるのかもしれないな、と。紅茶は何で冷めないんだろう。もしかしたらK君と彼女は実在しないのでは?純度の高い想いの象徴としての二人なのかも。≪ダイヴィング・プール≫寂しい。切ない。泣きたくなった。純が彩をいつも見てたのはどういう感情からなんだろう?
2016/03/31
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