亡命旅行者は叫び呟く (福武文庫 し 102)
亡命旅行者は叫び呟く (福武文庫 し 102) / 感想・レビュー
メタボン
☆☆☆☆ ロシア文学を専攻していた島田らしい作品。パロディ精神が爆発し、その文体とも相まって面白い作品となっている。表題作と「大道天使、声を限りに」、キトーとワタシを主人公にする連作。どちらのタイトルとも「叫び」がテーマである。その叫びはヒコクミンたる歪んだ日本語であるが、表題作の終盤でソ連の民警に捕まったときに発するワタシの「僕は日本人だ」という叫びが、極めて暗示的である。
2016/02/23
味読太郎
亡命旅行者は2人いた。2人は別々、ソ連へ。機械の日本人から生身の日本人を目指すキトー-腐敗した〈民族の誇り〉の持主キトーは強姦の罪を償うことなど到底できそうにないと、思った瞬間、自分が所属する国家に庇護を求めたのだ。-そして、日本人でも何人でもない〈何者でもない者〉になろうとするワタシ(渡志)-ワタシは日本語で叫ぶことに気づいた。日本人が聞きつけて助けてくれるかもしれない。-現地の人と交り、女と交りそれぞれ引用箇所にあるように日本、日本人であることを痛感する。だが帰国してきた2人は全く違う変化をとげた。
2014/09/08
ミツ
表題作とその続編の二つの中編を収録。初島田雅彦。不思議な作家である。ロシア文学を専攻していた著者の、日本語の定型的な決まり文句から逸脱するポキポキと折れ曲がるような文章表現は、読んでいてとても新鮮だった。 〈日本人〉として〈日本語〉で〈日本文学〉を書くこと。ロシア文学という外からの視座を取り入れることによって、新たな日本語、新たな日本文学を更新した、稀有な作家である。 「真の文学は職務熱心な官僚によってではなく、狂人、隠遁者、異端者、夢想家、懐疑家、反抗者によってのみ生み出される」良作
2010/07/22
ろくしたん
何度も読んでしまう本。感覚の変わった文体。最初は気持ち悪いと感じた。また読み返したら、キトーのロシア滞在中の日付が今くらいだった。具体的要素が結構出てくるので、いつでも親身に読める。ミチコとキトー。まだ、ワタシが出てくるところまでは、読んでない。抽象的かつ、皮肉なネーミングセンス。現代日本人からするとショッキングな描写も多いが、本当に旅行した気分になる本。久しぶりに鷺沢萠の本なども併せて読みたい。
2020/09/19
葛西悪蔵
島田雅彦の初期作品には、屁理屈を理論化しつつその理論を無効化し、笑いのめす様なスリルとシニカルな笑いがある。 島田雅彦が芥川賞を取らなかったのは時代の先を走った作家としての名誉ではないかと思う。
2013/01/31
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