冷めない紅茶 (福武文庫 お 1002)
冷めない紅茶 (福武文庫 お 1002) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
比較的初期の中編小説2編を収録。表題作の『冷めない紅茶』は、芥川賞候補になった作品。その翌年には『妊娠カレンダー』で同賞を受賞している。この作品は、小説としての完成度は高いと思うのだが、逆にそのことによってインパクトには今一つ欠けるということになるだろうか。K君夫妻とのやりとりも幽冥境の中でのような、はたまた現実であるかのような微妙なあわいにある。この時期の小川洋子さんは、そうしたところにこそ文学の本質を見ていたのだろう。そして、それを突き抜けた先に、彼女の本当の小説世界が拡がって行ったのだと思われる。
2013/06/20
チョコ
『冷めない紅茶』私なりに解釈しながら、今とてもわかるし言葉にできない気持ちを上手く表現していてとても好きだなぁ。昔だったらわからなかったかも、などと思いながら読み終わった。が、巻末の長いか辛口解説を読んで、えーそうだったの?!再読したけれど、解説されないとわからないってどうなんでしょう。でも、この作品に漂う雰囲気はとてもよくわかる。『ダイヴィングプール』は残酷さと甘酸っぱいが表裏一体。天は見てますね。
2024/05/19
眠る山猫屋
たぶん、とても好きだ。現実と幽冥の端境目をさまよう『冷めない紅茶』、恋とその向こう側にあるような感情の機微をスケッチしたかのような『ダイヴィングプール』。K君と彼女が実在の世界の住人かは、推測するだけ意味がないだろうが、彼らがやってきた遠く安らかで清らかな白暮の図書館に心揺さぶられるのは何故だろう。そして彩が二度と帰れないと気づいた、大勢の中でも二人きりだったダイヴィングプールの真っ白さに惹かれるのは何故だろう。二編とも、現在の作品からは(少なくとも表面上は)淘汰された、近づき易い感情の織り成す物語。
2018/09/24
芍薬
相変わらず日常の動作を特別に美しく切り取る表現が素晴らしい短編でした。小川洋子さんは最も美しい文章を書く人ではないかしらん?
2012/03/22
陽@宇宙望遠鏡⭐︎星と宇宙とロケットが好き
表題作、小川氏の何気無い生活の描写の美しさは、哀しみを薄紙で丁寧に包む様な情景描写と相まって憂いを帯びてるのにどこか清々しい視点で響く。苛立ちとして処理する気分を悲しみに変換する、この感情の流れを私は初めて他者と共有化した。小川氏の作品には水の流れを感じるのは、そういう部分なのかもしれない。ダイヴィングプールに小川文学のしなやかな棘を感じる。机の中のシュークリーム、一時本を閉じる。文学とは声に為らない声、消化仕切れぬ感情を如何に表現するか、昇華させて行くのか、なのかもしれない。
2014/05/05
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