狂人日記 (福武文庫 い 402)
狂人日記 (福武文庫 い 402) / 感想・レビュー
メタボン
☆☆☆★ 色々なことがバラバラになっている。生活、時間、人間関係、住まい、思考。これこそが「狂人日記」というタイトルの狂人の由来なのではなかろうか。圭子は男の何に魅かれて尽くすのか。彼が「最高の男」との思い込みなのか、そこに自分を見出すからなのか。小説の醍醐味は感じられなかったが、人が一人で物事を考える時の空気のようなものをひしひしと感じ、それがこの小説の独自性になっているのかと思われた。唐突に現れる幻覚の描写も良かった。
2018/12/09
田氏
題名からしてこれだし、冒頭から「グリーン色宇宙型をした蜘蛛」なんてパワーワードが出てくるから、めくるめく妄想幻聴幻覚ワールドを期待してしまうところだが、案外そうでもない。本題は内省をつきつめた先の孤絶で、狂気よりもむしろ透徹した思考であるために、下手な幻覚よりもよほど肝を凍結粉砕せしめる。「健常」としてうまくやっていくためには、自分を簡略にするか、不合理性をつとめて無視するかの要請がかかる。それに抗えばたちまち内省の渦に飲まれ、まともではいられまい。その末に自分を病人と規定したならば、それは健常だろうか。
2021/06/21
zumi
一読して、何かが妙だと感じ、もう一度読み直した。タイトルが「狂人」なのに、語り手は全くといっていいほど「狂ってはいない」のだ。むしろ極めて冷静といっても良い。非常にシンプルで淡々とした描写は、恐ろしいほど整った客観性を感じさせる。一人称の手記といった形式なのに、文体にブレがない。幻覚や幻聴に対して全くの正気でもって対応している。しかし、この「ブレのなさ」こそが実は小説的な「狂気」ではないのだろうか。ドゥルーズが述べた「文学=錯乱/健康」に対して反発する生の企みなのかもしれない。非常に濃密な読書だった。
2014/05/04
やまねっと
重度の統合失調症患者の話。なんとなくわかる感覚がある。ここまで幻覚、幻聴、妄想が強いと僕なら辛いと思うが、主人公は受け流せるのですごいと思った。 病院で知り合った女性と一緒に暮らすようになるが、それが、妄想なのか本当なのか読んでて分からなくなる。弟は1人だが、2人出てくる。実際の?弟と小さい頃の弟。母親は完全な幻視である。その母親とも話をしたりするので本当なのか分からなくなる。作者はそれを狙ったのか? 日付は書いていないが、日記調に綴られている。 わかるだけに私もひどくならないようにならなければと思った。
2024/07/10
駄目男
重度の統合失調症患者の日々の出来事を、冷静な健常者が観察して書いているような話だった。はたしてどの程度理解出来たのかは疑わしい。著者は60歳で亡くなり、本書は50歳の時に書かれたものらしいが、その当時の色川はどういう精神状態だったのか。私には狂人の心境など書けないので、実体験なしで、フィクションとして思いついたことなのか、判然としない。というか、どんどんあり得ない空想の世界に話が及んでいくと理解不能になり、私には意外と難解な本だった。坂口安吾が言うように「あちらこちら命がけ」に通じるものがあるのだろうか。
2024/08/04
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