夜はやさし
夜はやさし / 感想・レビュー
遥かなる想い
テーマは「人生とは 崩壊の過程である」らしい。 ディックとニコル夫妻に憧れる ローズマリーの 視点から 物語は始まる。 精神を病む妻ニコルと 医師ディックとの 心の会話はどこか 脆く、危なげで 不穏である …ディックの心の軸が どこにあるのか?よく わからないまま、淡々と 物語は 進み、 破局の道へ…二人の感情が抑制された 会話が ひどく印象的な、そんな作品だった。
2019/03/20
藤月はな(灯れ松明の火)
妻との関係をモデルにしたフィッツジェラルドの半自伝的小説。『マジカル・ガール』や『アンチ・クライスト』のように夫が精神科医で妻が患者であるという関係は何かしら、嫌な予感がしてならない。ニコルは確かに『家族の終わりに』のエイプリルや『死の棘』のミホのように愛情が欲しいがために夫を常に試しては振り回す女だ。しかし、ニコルに対してのディックの言動は愛があるとしてもどこか、支配的に思えてしまうのだ。そしてディックがニコルと出会うまでは「いい人」と評されていたことにも違和感を覚える。どうしてもディックが掴めなかった
2017/07/06
syaori
登場人物たちの孤独や倦怠や不安と、自分と世界を結び付けるように思わせる優しい夜の幻想、何より「愛した人々」の重みに沈んでゆくディックの物語に胸が詰まりました。ローズマリーは言う「あなたはみんなの力になりたいのね」、ニコルはすがる「前にも助けてくれたでしょう」。彼らの信頼、愛の重さに彼は足場を失う。「善い人間でありたい、やさしい人間でありたい」、それにも増して「愛されたい」。そう願いながら「歓楽のかけら」を振撒いて愛されることに倦み、愛することで破滅してゆく彼の優しさ、欺瞞、繊細さに哀情ばかりが募りました。
2018/12/05
市太郎
本書を手にしたとき、その分厚さとずっしり感に暗澹たる思いを抱き、「グレート・ギャッツビー」もあまり自分には合わない小説だったと思い出した。読み始めて間もなくそれは確信へ変わった。これはついていけないと思ったものだ。だが、ローズマリーの視点から夫婦の過去の話へと移るにつれて段々とこの小説に包み込まれていく気がし、最終的にはすっかり埋没していた。懐が深いとは確かに、と納得せざるを得ない。読み終えて、ストーリーとは裏腹にこの物語に心打たれて触れられて私は幸せだ。堕落していくものが感じる夜の闇の優しさが痛い。
2014/01/03
長谷川透
春樹がカウリー版を先に読んだが故にそれに愛着を覚えるのと同様、僕も先に読んだがゆえにこちらに愛着を覚える。しかし、物語の始まりはオリジナル版が勝る。又、崩壊の過程の描き方もオリジナル版の方が生々しい。崩壊は無意識のうちに始まり、徐々に自覚に至るものだ。早い段階で気がつけば修正できるが、歯止めのかからない段階になり人は自己の崩壊に気付く。抗うことさえ無駄である。なぜなら抗いがまた別の崩壊の引き金になるから。酒に溺れるしかないのかもしれない。しかし、ただ堕ちて行くだけの話が、なぜここまで人の心を打つのだろう。
2013/06/06
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