雉猫心中
雉猫心中 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
雉猫"ヨベル"に導かれた不倫の物語。井上荒野のこの小説が特異なのは、当事者の二人が全く美しくないこと。とりわけ知子が。ついでに言えば、知子の夫もまた冴えない中年男。唯一、晩鳥の妻の夏美だけが溌溂として美しい。それゆえに晩鳥の感情や行為が歪むのであるが。主人公の二人の男女は性行為を繰り返すのだが、彼らが美しく描かれないが故に、ひたすらにリアルであり、また不毛感が全編に漂う。前半が知子の、そして後半は晩鳥の視点から語られるのだが、どちらの行きつく先にも待っているものは何もない。心中死さえそこにはないのである。
2023/05/27
モルク
雉猫を中心とした穏やかな生活を描いたものではなく、不倫ものである。雉猫ヨベルが二人が出会うきっかけとはなっているが…ネットで古本を扱っている妻子のいる晩鳥と中学教師の夫のいる知子の愛というよりは肉欲の物語。なぜにそこまでむさぼる。晩鳥は妻へのコンプレックスか、知子は夫への虚無感か。確かに知子の夫はキモい。でも絶対に近所の人は二人の関係に気づいていたはず。誰にも共感できず、想像を外してしまった内容にモヤモヤ。
2023/05/11
ゆみねこ
猫、というタイトルにつられて読みましたが、正直不快感でいっぱい…。やっと読み終えました。私には理解不能な世界でした。不倫ものはやはり苦手です。
2014/03/05
ぷく
口の中が砂粒でざらつく。そのまま我慢していたら、本を閉じた途端、口の端から砂がこぽこぽと溢れ出した。突き抜けた不快感は、逆に笑ってしまうほど愉快。お互いがお互いを支配していると錯覚し、そのくせ、君がいないと、私は僕は と泣き言を言う。所詮、お互いがお互いの影となっているに過ぎないのに。薄情けの男の部屋から飛び出して、地球の果てまで逃げたつもりになっていたけど、気づいたら、深夜0時に黄色の点滅になる信号の交差点に立っていた。結局日付さえも超えられなかった昔の私を思い出した。
2019/05/19
なゆ
雉猫ヨベルが仲をとりもつように始まったダブル不倫。最後は心中か…?というところまで転がり落ちていくんだけれど、ドロドロしてるような、そうでないような。お互いが何考えてるのか読めない二人で、なおかつそれぞれの夫婦関係も奇妙。不倫の日々を、男目線と女目線で語られるのだけど、それぞれの言い分を見比べながら読むのは、なかなか面白い。ヨベルを介して行き来のある二人だが、その二人もエサを待つノラ猫のよう。ラストはやっぱり不気味。井上荒野さんらしいザワザワした読後感を堪能。
2012/09/12
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