彼女のいる背表紙
彼女のいる背表紙 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
堀江敏幸による書物をめぐる随想。タイトルも魅力的だ。内容もまた、冒頭のサガンなどは自家薬籠中のものだろうが、フランス文学以外にもフィリッパ・ビアスやトーベ・ヤンセンなどとなかなかに多彩だ。中にはスワンニー・スコンターなどという聞いたこともないタイの文学まで含まれている。巻末を『更級日記』で結ぶなど、心憎いばかりの演出も。選書の質、量(ここに語られなかったものも多数あるはずだから)ともに希代の読書家だ。しかも、語りがまた絶妙の筆致である。情熱を極限にまで抑制した静謐な文体はこの人ならではのもの。羨望の極み!
2017/10/20
紅はこべ
サガンから始まり、『更級日記』の作者で締める。『クロワッサン』連載のせいか、取り上げられるのが女性作家、女性登場人物がやや多めの気が。『クロワッサン』の読者って趣味が高級ね。知らない作家作品が多くて、自分の無知を恥じる。そんな中でマラマッドや小沼丹など既読の作家を見るとホッとする。『くまの子ウーフ』の作家が書いた小説、ちょっと意外で興味を持った。本を愛する人が本を語るという趣向そのものが好きだ。
2017/10/23
ソングライン
過去の自分が出会った印象深い女性の主人公達に、現在の作者が再会した感想を綴るエッセイ集です。作品に関係した幼い時の純粋な疑問、恩師との出会いなどの過去のエピソードから、様々な主人公の生き方、印象に残る物語の一場面などが、簡潔に平易に、時に深遠に語られます。読みたい本が一気に増えました。
2020/07/17
いくっち@読書リハビリ中
一節一文の流れがあまりに素敵で、急いで読むのが躊躇われる。背表紙の向こう側にいる彼女たちがまるで隣人のように、あるいは懐かしい幼なじみ、昔の恋人のように感じる。堀江さん自身の感情はとても静かでいて、文章の中の彼女たちの息を感じるのはなぜだろう。7月に読んだ「いつか王子駅で」に引き続き2冊目。大事にしたいと思われる作家の一人となりつつあったので、文庫本をゆっくり追いかけてと思っていたのだが、新刊の装丁に負けて図書館で借りた。これはちょっと手元に置いて楽しみたい一冊でした。 続。
2009/09/10
つーさま
本の中を生きる女性たちと足並みを揃えるように絶妙な距離感を保ちつつ、彼女たちの横顔をしっかり捉え、そこから見えてくる小さな心の機微をそっとすぐいあげる。そのやわらかな手つきを通して聞こえてくる彼女たちの声に、息遣いに耳を傾けているうちに、見たことのないはずの姿がはっきりと目に浮かんでくる。そして、恋にも似たざわめきを覚える。本を閉じてしばらくは鮮明なイメージとして頭の中に留まる。おそらくその姿が脳裏から消えないうちにまたこの本を手に取るだろう。彼女たちとの再会が今から楽しみだ。(続)
2013/07/09
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