渋く、薄汚れ。: ノワール・ジャンルの快楽
渋く、薄汚れ。: ノワール・ジャンルの快楽 / 感想・レビュー
蛸
一度ノワールというジャンルに魅了されてしまった人間にとって、滝本誠の文章は金言の数々と映るはずだ。そういう意味でリトマス試験紙的な本でもある。つまるところノワールとは一つの世界観なのだ。絶えず世界の裏側を垣間見ようとするマゾヒスティックで下世話な想像力に支えられた世界観とでも言うのだろうか。その意味でナルシズムと安定性に支配されたハードボイルドとは似て非なるジャンルだなぁと改めて思わされた。ノワール的感性の赴くままに、領域横断的に(脱線気味に)映画から美術、音楽を語る独特の文章がクセになる一冊。
2018/01/18
Schunag
幾度も拾い読みしてきて、はじめての通読。日米英で1980年代末からクラシック・ノワールの再評価がはじまり、90年代のネオ・ノワールの勃興につながっていったが、起爆剤であったバリー・ギフォードの動きに共振することで、日本で真っ先に「ノワール」を察知/紹介したのが滝本誠で、ミステリマガジンでの彼の洋書レビューがなかったら、私がノワール小説に耽溺するタイミングはタランティーノ出現以降になっていた気がする。トリビアと脱線が高密度で蛇行する語りの名人芸には嘆息するばかり。
2022/02/11
カトキチ
やや読みにくさを感じる文章だが、慣れるとその情報量やゴシップ、妄想力に圧倒され、映画評以前に読み物としておもしろい。特に『現金に体を張れ』はどこまでが本当なのか分からないが、プロデューサーやら版権うんぬんの話、さらに当時のヒット作の傾向から引っ張ってきて、へぇーとうなづくばかり。『オールドボーイ』を餃子サスペンスと言ったり、過去が襲ってくるというのが実にノワール的だと語る『ヒストリーオブバイオレンス』など、独特の視点がユニーク。暴走しているが、しっかり原作やら元ネタからあたるなど映画評としてはまっとう。
2012/10/15
nora
取り上げられている作品ももちろんそうだけど、それを語る滝本さんの文章もすごくかっこいい。章題が「どんな末路が待とうが、犯罪の弾ける楽しさ、悲しさこそが。」とか「地べたを這う目線が、ノワールの世界を準備した」とかね、しびれるなあ。
2010/09/14
午後
フィルムノワール、1940年代から50年代までアメリカで流行った、いくつかの特徴を持つ白黒の犯罪映画についての本なんだけど、そのはずなんだけど、脱線の仕方がとても面白い。ハリウッド・バビロン的なゴシップネタから、エルノイなどの犯罪小説家との関連、画家エドワード・ホッパーがフィルムノワールの画作りに与えた影響とか、映画だけにとどまらない色んな情報が、作者のたくましい妄想力によってするすると紡がれていく。作者の半生?なんかが語られる章まである。肝心の映画の話は、フィルムノワールの定番はもちろん、狭義のフィルム
2017/02/04
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