木犀!,日本紀行
木犀!,日本紀行 / 感想・レビュー
seacalf
外国人が描く日本は少々ピントのずれた考察が可笑しさを誘い、時にハッとするような気付きも与えてくれるので、いつも興味が尽きない。今回は、日本について膨大な知識があるのにも関わらず、真四角で日本に溶け込めず、必要以上に自分自身に異物感を覚え、窮屈そうな旅人。とりわけ「冷たい山」が顕著。温泉に浸かる場面は最早喜劇。もっとあるがままを風雅に楽しめばいいのに。文章は非常に絵画的で美しい。オランダ語-ドイツ語-日本語という重訳と翻訳者の主観から離れたらもっと美しいものだったのではないか、そう感じさせる美しさだった。
2017/08/09
きゅー
日本を舞台にした小説1篇と、日本紀行4篇からなっている。 小説では、日本文化に憧れをもって訪れたオランダ人男性が、東京の喧騒を目にして失望する。彼の中で育んできた日本観とは『源氏物語』によるものであって、現実の日本は猥雑に感じる。「我々が日本で探していたのは、時間のなかにのみ存在し、空間のなかにはない日本なのだ。」と彼は言う。この物語がノーテボーム自身の体験の反映であることは想像に難くない。日本紀行では、私たちが意識しない、あるいはそもそも知らない日本について書かれており、恥ずかしい気持ちにさせられる。
2018/05/01
hiroizm
日本をテーマにした小説とエッセイを収録。「木犀!ーある恋の物語」はオランダ人カメラマンと日本女性との切ない恋を描いた短編。言葉が壁となり深みのある会話ができないけれど、女性は大胆さと諦観が混在、男の側はやや破滅的にのめり込むという設定が面白かった。個人的に80年代末〜90年初頭、六本木墓苑周辺の外国人が集まる飲み屋さんに入り浸ってた頃の飲み仲間を思い出してしんみり。こんな関係性の二人組、いたなぁ。みんな元気でいるのだろうか?できたらあの頃の飲み仲間の感想を聞きたいもの。
2020/11/19
J.T.
旅行者は訪れた風景の中に、自分の知っていることの断片を常に探そうとする。表層的な目に見えるもの以外の、もっと深いところでその地に暮らす人間に刷り込まれた気配のようなものまで。今日、マンガやアニメが好きで日本を訪れる外国人達に日本はどう映るんだろう。街を歩けばトラックの車体、店の幟などいたるところにマンガっぽいキャラが描かれているが、自分がそういう旅行者だったら、こういった文化を生み出した人たちの秘密を、それをあらゆるところに見出そうとするだろう。久々にいい紀行文を読んだ。
2017/07/25
渡邊利道
幻想的、美学的な日本のイメージに惹きつけられるオランダ人の写真家が、言葉がうまく通じない日本人女性との恋愛というか性的な関係に溺れて、結婚を望むが拒否されて懊悩する。まあこいつアホやというお話。作者の日本に関するエッセイを四篇付す。なんというかいい気なもんだという感じがするが、浮世離れは作家自身も承知のようであまり不快感はない。
2021/07/26
感想・レビューをもっと見る