公民の民俗学
公民の民俗学 / 感想・レビュー
きいち
確かに七五三も初詣も神前結婚式も、僕らが伝統と思っているものの始まりは大正から昭和初年、民俗学はそうした近代国家の伝統の創造に大きな役割を果たした。それは元々、国を支えようと官僚となった柳田らしい仕事なのだが、彼にはそれと並行し、郷土のことを自らの言葉で語れる公民を育てようという意思もあった。そのことを発掘し民俗学に新たな可能性を見い出す、リベラルにして元・民俗学徒、大塚ならではの試み。大塚のこういう過去の経験を統合し新しいものを産み出す編集者ダマシイ的な仕事って好きだ。自分のロールモデルにしたいと思う。
2013/12/22
yukkedamari
『……それぞれの「私」を出発点とし、互いの差異を自らのことばで語り合い、それらの交渉の果てに「公共性」があるのだと考えた、昭和初頭に束の間出現した「公民の民俗学」こそが、ぼくたちが「日本」や「ナショナリズム」という、近代の中で作られた「伝統」に身を委ねず、それぞれが違う「私」たちと、しかし共に生きうるためにどうにかこうにか共存できる価値を「創る」ための唯一の手段であると考える。「創る」のは「伝統」ではなく、「個」から出発する「公共性」である。』(169頁)
2022/07/12
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