話の終わり
話の終わり / 感想・レビュー
紅はこべ
私はこういう語り手が小説を書いている式の小説は好きなんだけど、これはちょっと読み難かった。語り手の<私>がどの<私>なのか、混乱してくる。訳者のあとがきを読んで、私が認識していなかった<私>がいたことが判明。主人公のカップルに明確に名前が与えられていないのも理由か。恋愛についてというより、恋愛について語る小説についての小説か。これほど喜びのない恋の小説も珍しい。執着の対象になる程、彼の魅力がないし。
2019/02/14
nobi
十二歳年下の彼氏への思慕と互いの心の移りようを延々と書き綴る。その時々でどう感じどう振る舞いどんな反応があり周りの風景はどうであったかその一部始終を言語化してゆく。その一途さと言っていのか、と長さは度を越している。まだ書くのか、もういい加減にすればとも思う。それでも読み続けてしまう。場所と時間が折り重なり生身の私書き留める私小説にする私があり、機織り機で織られる経糸と横糸のように変化を生み出してゆく。執念じみた追いかけ問いかけの間にふと現れる清冽な叙述が新鮮。その日常の徹底した叙述が異次元の世界に繋がる。
2020/06/13
藤月はな(灯れ松明の火)
舌が痺れるほど、不味い一杯の紅茶をきっかけに思い出される年下の恋人との日々と後悔と回想。この構成で『失われた時を求めて』を意識していることがわかります。互いに愛していた。なのに一緒に過ごす内に相手のことが疎ましくなり、意固地になり、相手を一方的に傷つけてしまう。結果、自分から別れたのに恋人の事が気になってしまい、相手の職場、引っ越し先まで後をついてくる。読んでいてドン引きする女性翻訳家が主人公です。でも相手への甘えからくるサディスティックな心持ち、みっともないくらいの痛さは私もやってしまいそう(・・;)
2015/12/06
三柴ゆよし
昔の男をひきずる女が彼との記憶を語る、いや語ろうとする。なにかを物語るとは、必然的に、その語られるなにかを選り分け、取り除き、付け加え、そうしてそれを語る自らのエモーションもまた刻一刻と変化していくものであってみれば、ほとんど絶え間ない語り直し、その反復が要請される行為である。いままさに物語が生起せんとし、それが生まれ続けていく、その躊躇いと苦痛、喜悦を丁寧にすくいあげた本作は、きわめてスリリングでエロティックな読書体験を私たちにもたらす。リディア・デイヴィス一連の短篇が苦手なひとにも読んでほしい佳作。
2016/10/04
hagen
三十代の女性教師、翻訳家、そして小説家である主人公が書いた小説という体裁をとる。表現されるのは、目まぐるしく移り変わる情念の虜になりながらも、自己否定に絡み取られ離れゆく男にもがき苦しむ、自らを憂う姿。一人に男性に恋焦がれ、嫉妬に狂い、焦燥の思いに打ちのめされる心の微妙な動きを極めて精緻に描き出している。小説の中で現れる細やかな情景描写は、日々押しつぶされながらも懸命に取りすがる彼女の生きる世界を感情豊かに描き上げる。ここまで愚直な表現で包み隠さず、すべてを露呈せざるを得ない彼女に凄みすら感じてしまう。
2020/12/22
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