記憶よ、語れ――自伝再訪
記憶よ、語れ――自伝再訪 / 感想・レビュー
syaori
色鮮やかな魔法の絨毯が織り上がっていくのを眺めているような気持ち。この自伝、魔法の絨毯を飾るのは幼年時代から青年時代の一族や両親や家庭教師、蝶、様々な恋の思い出たち。それらは過去から現在へ、現在から過去へと投げかけられる光で煌めいていて、その輝きに目が眩むよう。でも本書の何よりの魅力は、実は読者は目の前で織り上がる魔法の絨毯に乗っていて、作者の言う「愛するものすべてがそこに吸い込まれていく、瞬間的な真空」、ナボコフが思い出から再構築した美しい結晶の中心を漂う恍惚を味わっていることなのではないかと思います。
2018/08/06
Ecriture
ナボコフによる自伝。時系列に沿った年表形式ではなく、稀代の文筆家の美しい文体によって、「魔法の絨毯」の模様が重なり合って読者を躓かせることも厭わない、随想的、「無時間的」で、「恍惚感」のある作品。読み進めるうちに、ナボコフの家系やロシア・ヨーロッパ・アメリカ時代の暮らしぶりが明らかになっていくが、チェスプロブレムや鱗翅類採集を偏愛するエピソード群が印象的。
2016/04/17
柳瀬敬二
自伝というにはあまりにも奇書、ナボコフ自身を主人公にした小説と形容した方がしっくりくる一冊。その大部分は失われた過去、トルストイの小説を彷彿とさせるような帝政時代末期のロシアでの日々が描かれていて、読者が知りたがるような作家としての彼に纏わるエピソードはほとんどない。だが、歴史のあちこちに登場する祖先や親戚、リベラルな政治家として活躍していた父、レーニンがもたらした暗黒時代に対するアイロニカルな怒りなど、亡命者という歴史の大河から取り除かれた人間の貴重な声が美しく響く。
2015/12/04
井蛙
ムネモシュネの悪戯を愛するこの毒舌家の作家は、自分の人生を書物の中に閉じ込めるときにも、彼一流の遊び心をけして忘れなかった。おそらく彼ほど書くということによって世界が再構成されるその不可思議な作用に意識的だった作家はいない。いや、むしろ世界とは再構成されるしかないものなのだ。だから彼は何度も自分の記憶を再訪し、それを音楽的に組み換えてゆく。「万国の労働者よ、解散せよ! 旧約聖書は間違っている。世界は日曜日に作られたのだ。」より正確を期せば、世界は六日間の労働を前提として、日曜日に始めて再-創造されるのだ。
2020/06/24
春ドーナツ
私の持っている「自伝の概念」が再構築された。そして、世界はまた少し広くなった。以下、余話。ピンチョン氏の自伝も読んでみたいけれど、夢のまた夢だろうな。
2017/01/08
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