ノスタルジア
ノスタルジア / 感想・レビュー
ヘラジカ
思考と記憶、超現実によって形作られた立体像の迷宮に彷徨う。それぞれが独立した短篇小説としても読める(というよりも本来は中短篇集らしい)ノスタルジックな思い出は、ときに甘美で他愛なく、ときに不穏で破壊的。そして、複雑怪奇に入り組んだ路を辿り、出口を目指すうち、次第に人智を超えた悪夢の世界へと踏み込むことになる。幻想というにはあまりに根源的な恐怖を感じさせることもあり、作風はボルヘスやカフカを思い起こすのだが、まるでラヴクラフトを読んでいるときのような絶望感もあった。神経をすり減らすルーマニア文学の傑作。
2021/10/10
hiroizm
ここ数年ノーベル文学賞候補として挙げられ海外では高評価の作家らしく急遽読書。この本は80年代に発表の著者が20代に書いた初期中編小説集。おおむね幼少期や若気の至りの恋などのトラウマ的出来事を絡めて、あらゆる心象情景や幻想、イメージを緻密かつ粘っこく豊穣な表現言語で徹底的に書き綴った力作ぞろい。都合によりこれを読書したのは残業後の帰宅電車内がメインだったが「仕事後に猛吹雪のヒマラヤでウルトラトレイルマラソンするってこんな感じかな」クラスの難度高。世界の文学って奥深いね、と読了後はマジぐったり
2023/09/15
きゅー
ノスタルジーを中心に据えた、緩くストーリーが繋がる複数の物語が収録されている。「ルーレット士」、「メンデビル」、「双子座」、「建築士」等は内容も緊密で、奇想に溢れ、リーダビリティも高い。それに対して「REM」が冗長で回りくどくで読むのが辛かった。傑作だった『ぼくらが女性を愛する理由』も掌編集であったし、彼の力は短編に発揮されるのかもしれない。訳者がいうところのカルタレスクの描写力の「バロック的なばかりの装飾」は、重ねれば重ねるほど、ゴテゴテとしてしまい、、物語の本筋から読者を引き離してしまうように感じた。
2022/03/04
warimachi
文体の面白さには瞠目したが、どうにも「若気の至り」という感じがしてしまうなあと思っていたら、訳者あとがきのド頭で「ミルチャ・カルタレスクは永遠の少年である」(p.374)と言い切られてしまったのでもはやぐうの音もでない。
2022/07/31
沙羅双樹
カルタレスクには奇妙なまでの少年性と純真性を感じた。それが手伝ってか、あらゆる感覚が生き生きと働いており、小説の細部まで自分を宿すことに成功した作家だと思う。機会があれば別な作品も読んでみたい。
2024/10/14
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