ある投票立会人の一日
ある投票立会人の一日 / 感想・レビュー
きゅー
オルメオは選挙の投票立会人として、救護院施設に着く。しかし投票立会の傍らで、彼は周囲の現実とは別の想念に思いを馳せている。本書の執筆は1953年頃から開始されており、リアリズム文学の雰囲気が濃厚。後期の軽やかさは感じられず、非常に無骨だ。伊田久美子氏の書評によれば、オルメオ(ormeo)は愛(amore)のアナグラムだという。その故か、本書の最も崇高な場面は障害を持つ息子とその父が黙って病室に佇むシーンだ。様々な愛の形があり、それが投票という未来への企図の延長線で語られることに本作の意義があるのだろう。
2017/10/17
roughfractus02
寓話的手法は実話なる考えを曖昧にし、別のメッセージを仄めかす。それゆえ、1950年代のイタリアの選挙を題材とした本書を実話のように読む読者は、障害者施設に派遣される主人公の名アメリーゴに新大陸発見者の名を重ね、その姓ormeoに愛amoreのアナグラムを見出し、15章の間の広めの余白が気になり始める。おそらく寓話は拡大した参政権と市民権を物語の外にまで及ぼし、2つの差別-物語内では人権、物語外では筋に疎外される文字や余白の権利-を露わにし、書物の権利を差別して成り立つ読む行為を読者自身に仄めかすのだろう。
2019/03/05
lico
カルヴィーノの作品が今になって本邦初訳という謳い文句と共に出版されたということで嫌な予感を感じながら読み始めたわけですが、想像よりも普通の作品でした。ただし、イタリア人の読者を想定しているであろうこの小説を現代の日本人が今さら読む意味があるのかといわれると微妙な気がする。『くもの巣の小道』でも似たような感想を抱いたのだけれど、こちらには少年ピンの視点から語られる寓話的な現実よりもずっとリアルな、パロマー的な現実が描かれている印象を受けた。イタリアから離れ個人としての思弁にふけるチャプターⅪが一番楽しめた。
2016/09/29
葛
2016年9月1日初版第1刷印刷 2016年9月10日初版第1刷発行 著者:イタロ・カルヴィーノ 訳者:拓殖由紀美 発行者:百瀬精一 発行所:鳥影社 印刷・製本:モリモト印刷・高地製本 協力:八木宏美、アルバ・アンドレイーニ、坂本仁美、フランチェスコ・コット、マッシモ・スマレー、百瀬精一、小野英一 文学ノート・私のカルヴィーノ論:カルヴィーノ文学の軌跡が示唆するもの、逆転する作家ーカルヴィーノ文学とヴィットリーニ、「物語」からはみ出す「私」とカルヴィーノ文学の軌跡
2019/07/19
ナカユ〜、
カルヴィーノ読みの人々にとってもそうでないひとでも、随分地味な本だな、と思えるし僕もカルヴィーノにしちゃ随分おとなしいな、だから今まで翻訳されなかったんだろうな、と思った、中篇で中途半端な長さだしw、と散々言ってりゃな感想だが、読み応えはある、ゆっくり読まないと、しかしここで本の半分にわたるカルヴィーノ論を読むと結構大事な分岐点にあたる作品なのが分かる、と同時に「おお、いい本読ませてもらったぜ」となる、いい加減だな俺!、www
2018/12/19
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