リリカル・アンドロイド (現代歌人シリーズ29)
リリカル・アンドロイド (現代歌人シリーズ29) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
これも書肆侃侃房の「現代歌人シリーズ」の1冊。荻原裕幸は1962年生まれなので、もはや新進や若手ではなく、中堅どころか、さらにもう少し上。本書も第6歌集にあたるらしい。ただし私は初読だし、これまでは知らなかった(そもそも、知っている方が少ないのだが)。『リリカル・アンドロイド』ーなんともいいタイトルだ。ただ歌の内容からリリカルはともかく、アンドロイドの命名の由来はわからない。俳諧ではないので、季語というわけではないが、ほとんどが季節の推移と深い相関性を有した歌である。前衛風ではないが、静かにさりげなく⇒
2024/03/20
太田青磁
式場を出て気疲れの首かたむけて本音のやうな骨の音を聴く・嫌なだけだと認めずそれを間違ひと言ふ人がゐて春の区役所・春が軋んでどうしようもないゆふぐれを逃れて平和園の炒飯・棚や椅子や把手のねぢを締めながら白露わたしのゆるみに気づく・他意のないしぐさに他意がめざめゆく不安な冬の淵にてふたり・喪主と死者のやうにひとりが饒舌でひとりが沈黙して寒の雨・嫌だなあとやけに泡だつこゑが出て自らそれが嘘だと気づく・香車の駒のうらは杏としるされてこの夕暮をくりかへし鳴る・同じ本なのに二度目はテキストが花野のやうに淋しく晴れる
2020/07/19
わいほす(noririn_papa)
何だかすごくその感性に共感して買ってしまった。穏やかな日常や風景を綴りながら、時々はみ出したり闇を見つけてしまったり。この著者を知らなかったのだが、昔はホムホムたちとニューウェーブで暴れていたらしい。するとこの叙情歌はアンドロイドとしての仮の姿なのだろうか。でも案外、素はロマンティストなのかも。今後もこの路線で行ってほしいな。歳を取ったら自然体(笑)。好きな歌を二首。 追伸のやうな夕日がさつきまであなたが凭れてゐた椅子の背に 思ひ出さうとすれば遠のく青き日々の空をしづかに焼く百日紅 (妻シリーズも好き)
2020/12/19
qoop
生活感に根差したリリカルさと、日常の外側を覗き込んでしまう怖さを伴う幻想味。二重写しのアンバランスな視界をバランス良く切り取った独特の安定感。暮らしの中で歌が醸される/切り取られていく自然なあり方を示すような、心強い感覚。/妖精などの類ではないかひとりだけ息が見えない寒のバス停/こむばんわぁと聞こえたのだが雨の中どの木蓮の声だつたのか/この世から少し外れた場所として午前三時のベランダがある/この夏は二度も触れたがそのありかもかたちも知らぬ妻の逆鱗/本を閉ぢるときの淋しき音がしてそれ以後音のしない妻の部屋
2020/06/27
りっとう ゆき
すごいな。心地よくてずっと読んでいたい。
2021/01/17
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