聖伝 (ルリユール叢書)
聖伝 (ルリユール叢書) / 感想・レビュー
あさうみ
とても良い…素晴らしい珠玉の短編集です。創世記をベースにし、おとぎ話のような楽しみのなかに「正しく生きるには」と問い続けて、読者の目を、心をひらかせる。戦争で苦難を強いられたユダヤの目線だからこそ。迫害の中で誰よりも平和を願い、生きるための希望を探し続けた…胸がいっぱいになります。解説まで逸品です。人生で出会えて幸せな一冊。
2020/09/08
星落秋風五丈原
「永遠の兄の目Die Augen des ewigen Bruders」(籠碧 訳)はまるで中島敦の「名人伝」のような作品だ。「名人伝」は弓の名手が究極の名手を目指した所、何もかもそぎ落とした状態になる話だ。解説者が「ポジションの移動があるたびかっこいい異名を手に入れている」と称するヴィラ―タは、つまりは何をやっても優秀なのである。だから人の注目を集め、影響力も大きい。彼の行為の中には意図したわけでなくても悪い結果をもたらす事もある。そもそも社会で生きている限り誰にも影響を与えず生きていくことはできない。
2022/02/17
刳森伸一
ツヴァイクの諸作から聖伝に関するものを集めた短篇集。伝記小説や心理小説に定評のあるツヴァイクのさらなる一面を見せてくれる好著。各聖伝からはツヴァイクの思想が比較的分かりやすく表出されていると思う。曰く、「戦うな」、「隠れて生きろ」である。戦うたびに弾圧されてきたユダヤ人としての出自を慮れば、その思想にも説得力があるが、一方で根本的な解決を生み出さないものとして映り、アンビバレントな気持ちになるのも事実である。
2021/07/13
青柳
伝記作家ツヴァイクによる「宗教伝説」を題材にした作品集です。訳者の方針として「聖伝」の中でも、「戦争と平和」をテーマとした作品集になっています。どれも秀作揃いですが、個人的には「埋められた燭台」のストーリーに感動致しました。ディアスポラ(文学)を平和小説へと昇華させる話の巧みさはツヴァイクならではですね。ただ、一点悲しいのが現在、ツヴァイクが「埋められた燭台」に託した思いと裏腹にイスラエルのガザ攻撃が激化していることです。ユダヤ人のツヴァイクがもし生きていたら今のイスラエルについて何を思うのでしょうか…。
OHNO Hiroshi
肉体である身体や物は、借りものであり、いずれは返すもの。聖なるものは時代を超えて、人々に受け継がれる。都市伝説かもしれないが、伝説は確かにある。
2021/07/25
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