カメラの前で演じること
カメラの前で演じること / 感想・レビュー
ぐうぐう
映画『ハッピーアワー』を観た時の衝撃は、今も鮮明に刻まれている。5時間を超える上映時間、しかも演技未経験のキャスト達という、不安材料ばかりの事前情報を木っ端微塵にしてしまう面白さと、何より驚きが『ハッピーアワー』にはあった。「演じるとはなんぞや」という『ドライブ・マイ・カー』に引き継がれる根源的な問いが、ひとつの実践として目の前で繰り広げられる、まさしく驚きたるや、言葉ではまるで言い表せない。それはキアロスタミの『友だちのうちはどこ?』を初めて観た時の驚きに近いが、(つづく)
2022/03/25
こうすけ
映画『ドライブマイカー』が絶好調の濱口竜介監督による、出世作『ハッピー・アワー』の演出論・シナリオ集。ほぼ全員素人による、5時間超えの大長編映画はどのような狙いで生まれたのか、丁寧に解き明かしていく。特に面白いのは、サブテクストと題された、映画本編には登場しない裏設定的なシナリオ。映画を見て疑問に思ったり気になったりした部分の解答になっていて、本編に奥行きを与えている。シナリオはそうでもないが、素の文章を読むと「あぁ、村上春樹好きなんだな」とよくわかる。
2022/01/31
ぞしま
こうしてテクストとして読んでみると「普通のこと言ってるなぁ」などと鼻ホジ感もあるのだが、時間の流れ方は(当然)自由で、速く読んだり、ゆっくり読んだり、あるいは戻って読んでみたり……楽しい。最後にサブテキストがあって、あの謎の葉子さんの出自とか、芙美と拓也の出会いとか、そもそもの4人の出会いとかが書かれていて、とても嬉しかった。このサブテキストの存在、ワークショップ(的手法)が作品を異常な高みに押し上げてるのではなかろうか、なんて贅沢なことだ、と思う一方で、逆にそれが出来ない場合はどうなるか、なんて。
2021/09/25
パンナコッタ
映画監督である著者の作品を最近まとめて鑑賞し、中でも「ハッピーアワー」は 今年見聞きした作品でマイベスト。「役者が演じるのは私であるが、私ではない。」役者を小説家と置き換えてもいい。柴崎友香は小説というフォーマットで、『私』の濃度を薄め、観える景色や人間関係により『私』を現前化し問題をやり過ごした。人は普段使わない言葉や感情に敏感で、違和感を覚えるという問題だ。そんな現実と虚構の違いに敏い彼はその問題を正面から見据える。徹底的に人物になりきっても嘘をついた身体を見逃さない暴く装置であるカメラを相手に。
2018/10/06
tomoko
映画「ハッピーアワー」を全3部見終えたとき、彼女たちの佇まいも含めた演技の説得力に魅了された。この本は、そんな演技を引き出すまでの制作過程を、監督のカメラの前で演じることへのスタンスと併せておさめている。サブテキストにあるエピソードは、どれも映像で見たかった。特に、風間と淑恵のやりとりが切なくて好き。
2016/01/30
感想・レビューをもっと見る