この世界の片隅に【新装版】 (下) (ゼノンコミックスDX)
この世界の片隅に【新装版】 (下) (ゼノンコミックスDX) / 感想・レビュー
ムッネニーク
35冊目『この世界の片隅に 新装版 下』(こうの史代 著、2022年6月、コアミックス) 戦時下を力強く生きた家族の物語、堂々の完結。上巻の牧歌的な雰囲気を残しつつ、空襲や原爆といった強烈な戦火の恐ろしさと、戦争に左右される人々の情念を描き切った、正に傑作の中の傑作。 「ヒロシマ」を描いた作品は、様々な媒体で数多く存在しているが、この漫画ほど「人間」に着目しているものはないように思う。何度読み返しても、このクライマックスには心が揺さぶられる。 「よう広島で 生きとって くれんさったね」
2022/05/31
井月 奎(いづき けい)
戦争という強大な暴力は、ちいさな人間のことなど何もなかったかのように葬り去ります。その小さくて無力な人々は泣き、笑い、飯を食って生きているのです。忘れてはいけない、知らなければいけないことがあります。戦争によって名もなき存在にされてしまった人々の感情や、悲喜こもごもを私は想像しなければならないのです。人と人はどこかでつながって生きていくのです。この作品はもちろんフィクションですが、戦争に蹂躙されつつも命いっぱい生きた人々がいたことに思いを馳せる。それは人とのつながりであり、先人たちへの供養だと思うのです。
2023/05/31
もぐもぐ
新装版の下巻。新装版での追加部分はありません。上巻から一転、下巻では戦争の激化で、人々の暮らしや大切な人たち、すずの笑顔が徐々に奪われて行く様が恐ろしい。玉音放送を聞いたすずの怒り、被曝直後の広島の最終話が特に印象的。決して派手さのないこの作品を世に出す事に尽力された方々に感謝します。今回の新装版も市井の人々の尊厳を奪う戦争の愚かさに涙せずにはいられませんでした。永遠に残っていってほしい作品。
2022/05/27
ムーミン2号
下巻では昭和20年が描かれる。同級生の海兵隊員がすずさんが暮らす家に一晩泊めてもらうが、彼はすずさんが普通で安心した、という。しかしだんだんとすずさんも普通ではいられなくなる。時限爆弾に義理の娘とともに右手首を持っていかれてからは世の中や周囲の人のことを「歪んどる」と思うようになり、ついには北條家を離れる覚悟までする。そして迎える終戦の玉音放送にすずさんの怒りは頂点に達する。この世界の片隅に生きる人たちにとって、戦争とは何だったのか。その人たちの生活を、そして幸福を奪っていいわけはない。
2022/05/29
七
上巻からの続きです。改めて読んでみるとこの巻はとても読むのが辛くなります。すずさんの身に次々と大変なことが起こります。「誰でも何かが足らんぐらいでこの世界に居場所はそうそう無うなりゃせんよ」リンさんのこの台詞は救いですね。どんな辛い目に遭ったとしても、この世界の片隅に自分を受け入れてくれる場所があるなら、自分を愛してくれる存在がいるならその者たちのために生き続けてみようと思えてきます。
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