庭師ただそこにいるだけの人
庭師ただそこにいるだけの人 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
主人の死によって解雇され、路頭に迷っていた庭師のチャンスが、それからわずか1週間で大統領候補になってしまうお話ープロットを聞くと、なんとも荒唐無稽な小説。スピード感は優秀で、文字通り読者に息つく暇を与えない。物語の構造とすれば、極度にナイーフな主人公を設定することで、社会の常識の歪みを炙り出していくというもの。ニューヨーク・ポストの書評をはじめとして、アメリカでの評価は高いようだが、娯楽映画(映画化もされている)としてはともかく、小説としてはいささか深みに欠けるだろう。斬新というよりは、単純というべきか。
2014/11/18
かんやん
原題Being there。(ただ)そこにいる(だけ)。幼い頃屋敷に引き取られたチャンスは、庭師として働き、外の世界へ一歩も出ることのなかった頭の弱い男だ。ただTVを通してのみ外界と通じていた。ある日、主人が亡くなり、無一文のまま外に放り出された彼は、ひょんなことから財界の大立者の豪邸に引き取られて…。夢も野心も欲望すらないチャンス(ただTVを観ることだけが好き)が、ただそこにいるだけで、人々を魅了し、大旋風を巻き起こす。もちろん、それは徹底的に誤解に基づくから、ハートフルコメディではなく、風刺である。→
2020/01/24
キジネコ
豊かな示唆に満ちた寓話的物語。主人公は バイ・チャンス・ガードナー。偶然の庭師、天使の様な無垢の男。読み書きもできず、一つの庭の外の世界をテレビでしか知るすべのなかった男、土と植栽が全てだった男が庇護者の死により 守られていた垣根を失います。世界中が、時の権力者達が、経済を牛耳る大物達が、そして女達が、この「記録のない男」の出現をめぐり 微笑ましい勘違いに巻き込まれてゆきます。予想できなかったエンデイングに一旦首を傾げますが余韻は納得を読者に与えます。作家の生涯の謎と相まって奥行に魅力たっぷりの一冊です。
2014/02/12
星落秋風五丈原
皆何者かになりたくて、日々努力している現代において、チャンスだけは「ありのまま(=Being There)」でいる事が無条件で許される。いや、むしろ賞賛される。社会的責任に雁字搦めになり、常に変化を求められる人々にとっては、チャンスはまさに理想の人物だ。 単純なものを、わざと複雑に考えて、侃々諤々の人々。その脇をすり抜けて、最もシンプルなチャンスが、誰一人届かぬ場所へ行く。そんな奇跡があるんだろうかと、ふと思ったが、著者の経歴を見て驚く。なぁるほど、事実は小説よりも奇なりだったか。
2005/05/25
ネムル
社会から隔絶された孤児が多くを語らず、謎めいた風貌で偶然に成り上がってしまう話なので、小泉進次郎はこの作品に学ぶべき。冷戦下の60年代アメリカを舞台に、分断の進む社会へのシニカルな目線がコシンスキーらしいが、しかしそれも微温的な程度である。まあつまらなくはない、がいま読むに妥当な評価かと。
2020/10/20
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