憑かれた男
憑かれた男 / 感想・レビュー
のっち♬
苦悩に纏わる記憶を消すよう亡霊と取り引きした化学者。憑依をイメージした疑問詞反復や終止符抜きの幕開け、クライマックスのグロテスクな複合語の集中などレトリックは比類なき独創性。貧民窟の少年や売春婦といった社会像追求がクリスマスブックスの中で特にシリアス。新生児を亡くしたミリーや、「重荷」を愛と誇りで「宝」にしているジョニー親子は記憶受容の理想的体現者。許嫁を奪った親友への赦しは神の崇高な特性の実践だ。兄の記憶の中で瑞々しく生き続けたいという妹の願いは、義妹を亡くした著者のトラウマが書かせたのではなかろうか。
2023/07/31
きりぱい
辛い記憶を忘れる取引を亡霊と交わしたのに、なおも哀しみを負う男の物語。接触した者まで皆、幸せである記憶を忘れ、人が変わったように愚痴や後悔が口をついて出、不幸になってしまうのだけれど、そうならない人間が2人だけいて・・と、『クリスマス・キャロル』同様、改心するクリスマス物語のひとつ。『デイヴィッド・コパフィールド』を自叙伝とするなら、こちらもその前年に書かれ、ディケンズ自身の苦悩を克明に描いた影の自伝といえる作品になっている(とまあ、大体解説には)。過去があるから今の幸せも感じられるのだね(あっさり)。
2012/10/21
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