日本近代文学と差別 (批評空間叢書 2)
日本近代文学と差別 (批評空間叢書 2) / 感想・レビュー
ルートビッチ先輩
小説は現実や内心をア・プリオリに前提しはしないが、社会的に文学を認めるためにそうした前提の肯定と〈差別〉との関わりが協働しつ構成されてきたのかもしれない。ところが実際にそうしたテクストが露呈しているのは説話論的に下層を欲望し、それの持つ差異をテクストの絶対的なはたらきの下、懐柔していく「差別文芸」の狡猾さに他ならなかった。一方で、大西巨人では記号の簒奪を通した差異の突出が、中上健次では記号の簒奪を通りながら、より自らの特異性を際立たせた物語の作り出す均衡への打撃を行うという数少ない例外も見ることができる。
2016/02/09
なめこ
主に明治以降の歴史をひもとき、文学がいかに差別に荷担しそれを助長してきたかということを明らかにするとてもタフな批評。同じ著者の『不敬文学論序説』とあわせて読むとなお天皇と差別と文学の三者の関わりようが明瞭になる。大学時代、この先生の講義だけは一度もサボらずに受けていたことを思いだし、この人の授業に出られたということだけでも、あの大学に入って良かったと思った。本書では被差別部落を扱った小説に言及されることが多かったが、個人的には、松浦理英子の作品をはじめいわゆる性的少数者を題材にした小説を研究してみたい。
2015/05/05
ハイザワ
「表象=代行」と「物語」が手を結び、日本文学が社会問題の敵となるどころか、むしろ友となってしまうという歴史を暴き出した本。それは、章(しるし)を付与することが章を持つものと持たないものを区別することと、一元的な視点(立場)にあらゆるものを回収していく態度が、ありきたりな「物語」が行ってしまうことであるのと同時に、それが現実の政治・社会において起こる差別、支配の置き換えでしかないものだったことを露骨に示すものであった。個人的には、「引用」の持つ簒奪、過剰な機能に大きな魅力を感じた。
2017/08/20
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日本の近代文学が被差別者の「個別性を回収=抑圧」し、図らずとも差別に加担してきた歴史を、諸々の作品の分析を通して閲した好著。『破戒』を論じた第一章と、「来るべき中上論のための一章」である第五章「秋幸と路地」は出色。
2015/07/28
わい
大西巨人読まねばと思った
2018/06/16
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